美味しすぎない「サービスランチ」
カランコロンカラーン
今どきコントのシチュエーションでしか聞かないような甲高い鐘の音がなる。細く薄暗い階段をのぼりドアを潜ると、徐に手の消毒を促された。今どきは仕方がない。さらに額に機械を当てて入店する。今さらだが、35度9分ということは無いと思う。
13時を過ぎたというのに、店内は強引なまでに薄暗い。女性店員の髪色や髪型が、さらに夜の空気を醸し出す。このヘアスタイルに巨大な胡蝶蘭がしっくりと馴染む。昼間から生ビールが配膳されている。
窓際に立てかけられたメニューにある、ピザでもピッツァでもない、ピッザという表記が気になる。これを言葉として口にしたい騒動に駆られながらも、今日はサービスランチをいただくことにする。エビフライにハンバーグ、カニクリームコロッケがセットになり、ライスもデザートも食後のコーヒーまでもつくらしい。手を挙げて店員さんを呼ぶ。昭和を感じる猫なで声が店内に響き渡る。
次々と運ばれてくるサービスランチたちに目を奪われる。ライスがあるのにパンまである。コーヒーゼリーの上にはバナナがいる。テールスープで、仙台らしさまで表現している。過剰なほどのサービスだ。
どこから口にしようかと迷いつつ、エビフライを齧る。その刹那、ガリガリとした食感が歯を襲う。衣の下にはエビの頭が隠されていた。罠だ。
吐き出すわけにもいかず、そのままエビの頭を噛み砕く。なかなかのサービスじゃないか…。顎の疲れをテールスープで癒そう。スープを口に運ぶが引くほど熱い。これも罠だ。このランチは罠だらけじゃないか。
もう騙されないぞと、カニクリームコロッケを箸で切り分けて恐る恐る口に運ぶ。今度はぬるい。まるで弄ばれているようだ。キッと厨房を睨むと、棚の奥にライオンのような髪型の女性を見つけた。彼女がボスに違いない。
カランコロンと次々と来店がある度、女たちは過剰なほどに消毒を客に促す。このカフェバーはセキュリティが厳しいようだ。罠に対する対策なのだろう。ふとテーブルに目をやると、「毒液」と書かれたボトルが鎮座する。身の危険を感じはじめる。
雌ライオンの動向を確認しようと再び厨房に目を向ける。そこには今まで居なかった唯一の男性店員がいるではないか。金色のメッシュの中央部分に一筋のショッキングピンク。そんな歯磨き粉のような2本のメッシュが際立つヘアスタイル。雄ライオンは闇の世界の住人に違いない。気を落ち着かせようと、今度は慎重にスープを味わう。何やらこの店、テールスープだけが異常に美味い…。
最近、五社英雄や伊丹十三の映画ばかり見ているからか、どうにも頭の中がエンターテイメントだ。くだらない妄想にひとりニヤニヤし、ハンバーグを頬張る。窓越しの大通りに目を向ける。残念ながら、今日もいつも通り日本は平和だ。素晴らしいことだ。