美味しすぎない「味噌バターポテト」
いわんや、だ。
圧倒的な積雪のなか、酷く寂れた食堂にたどり着いた。今日は珍しく、とあるメニューを目指してやって来たのである。
「味噌バターポテト」
美味すぎるわけがない文字面に加え、ドライブがてらでは立ち入るのには勇気がいる店構え。嘘みたいに冬の空はキレイで、看板の店名は色あせている。山形の名産を名乗る安易さも潔い「手打らーめん紅花」の名物メニューらしい。
ドアを開けると木彫りの七福神が出迎え、オレンジ色のランプシェードと黒い短冊メニューがキッチュな店内。食べるものは決まっているのだが、こう言う店は暫し品定めに興じたい。そしてさも迷った表情で味噌何某をオーダーするのだ。
味噌バターポテトはラーメンである。味噌ラーメンに、おそらく店内で揚げられたポテトが大量に鎮座する。ポテトチップと表現したいところだが、チップと言うほど薄くなく、むしろその厚さは様々だ。
二郎のヤサイのように盛られた芋の山を掻き分け、ようやく現れた麺を食べる。レンゲでスープをすくい、さらに麺を食べ続けようとする意思を容赦なく挫くポテトたち。チャーシューかと箸をのばせば、それは茶色くなるまで揚げられたポテトだった。
メニュー名は「味噌バターポテト」である。つまりラーメンであることを拒否しているとも言える。味噌スープに浸った「じゃがバター」として食べるべきなのだと虚ろに考える。トッピング的に手打ち麺を食べれば何の問題もないじゃないか。むしろそのジャンクさ加減にテンションが上がってくる。おそらく瞳孔は大きく開いている。夢の中にいるようにひたすらに汁を吸ったポテトを食べ続ける。
食事も後半。芋の間からナルトが顔をのぞかせハッとする。よく見ればメンマもいる。そうこうしているとスープをふんだんに含んだ海苔も現れた。
そうだ、やはりコイツはラーメンだったのだ。キツネやタヌキに化かされていたかのように、安堵して麺を啜る。何やら情緒が不安定だ。味噌ラーメンにナルトやメンマ、海苔が入っていたかしら?と訝しみながら焦げたポテトを口にすると、ソレは柔らかく煮られたチャーシューだった。