2023年夏ドラマ感想④
年の瀬になってしまいましたが、夏ドラマ感想、これで最後の記事です。
ラストは金・土曜のドラマの感想です。
※ネタバレを含みます。ドラマによっては否定的な意見も述べますのでご注意ください。
【初恋、ざらり】
(テレ東系・金曜24時12分~・主演:小野花梨・風間俊介)
個人的評価:4/5
軽度知的障害と自閉症を持つ有紗(小野花梨)は、障害を隠して採用された運送会社でアルバイトとして働き始めます。そこで出会った社員の岡村(風間俊介)と互いに惹かれあいますが、二人の間や周囲には様々な障壁が立ちはだかっています。
非常にしんどい、でもとても良いドラマでした。
小野花梨も風間俊介も既に知られている通りとても演技が上手いのですが、だからこそ役への没入感がすごい。障害を持つ有紗の頭にだんだん靄がかかって何も分からなくなってしまう様子とか、常に優しくありたいのに、有紗の行動に対して時折とっさに間違った反応をしてしまう岡村のもどかしさとか、それらが全部伝わってきて非常に苦しかったです。
有紗のアルバイト先の同僚や、有紗・岡村の家族たちは、決して悪い人たちではありません。しかし、有紗の存在や行動が自分たちの平穏な日常を脅かしそうなときには、厳しい態度を取ってしまったり、有紗を傷つけるような言葉を投げてしまいます。もし有紗が周囲にいたら自分も同じような行動を取ってしまうのではないか、余裕がないときには優しく接せないのではないか、と考えると、自分の心の狭量さを突きつけられているようで、これもまた苦しかったです。
その苦しさに拍車をかけるのが、挑戦的な演出でした。回によって監督が異なるのですが、特に池田千尋監督の担当回でそれを感じることが多かったです。娘を気にかける母の表情を鏡越しに映してみたり、心が息苦しさにおぼれていく様子を水の音で表現したり、走っても走っても心が近づかない様子を、走る動きを逆再生して表してみたり。
演出上のテクニカルなことはあまりよく分からないのですが、こうした新鮮な演出が、すごく効果的に作用していたように思います。
総じてしんどいのですが、でもきちんと息ができて、救いを得られる場面もあり、質の高い深夜ドラマでした。
【癒やしのお隣さんには秘密がある】
(日テレ系・金曜24時30分~・主演:田辺桃子・小関裕太)
個人的評価:2.5/5
古いアパートに住む会社員の藤子(田辺桃子)。ある日、隣の部屋に引っ越してきたハイスペックイケメン・仁科(小関裕太)と次第に仲を深めていきますが、仁科は実は藤子のストーカーで……というドラマです。
ドラマの前半、アパートのベランダで藤子と仁科が語り合い、少しずつ心を寄せ合っていく様子には、惹かれるものがありました。仁科の奇行も同時進行で描かれるので、「藤子、その男にそれ以上騙されては駄目だ……」というハラハラ感もあります。しかし小関裕太の顔をした隣人が引っ越して来たら、そりゃ騙されますよね。
中盤以降、仁科がストーカーであることに藤子が気付いてからは、間延びしてしまった印象がありました。仁科視点の回、藤子視点の回に分かれて話が進んでいきますが、回想が多い分、テンポが悪いように思えました。藤子の会社の同僚たちの恋模様も描かれますが、描く必要があったかと言うと、微妙な感じで……。
ドラマ枠の都合上、13話で構成する必要があったのかとは思いますが、8話くらいで完結したほうがすっきり見られたように感じました。
あとは、結末が不気味ではありました。ドラマに現実世界と同じ倫理観を求めすぎるのもナンセンスだとは思いますが、ストーカー加害者と被害者が最終的に結ばれるというのは、どうしても後味が悪いと言うかホラー的と言うか。
仁科がうまくいったのは超絶ハイスペックイケメンだったからであって、現実のストーカーの皆さんが真似しないことを祈ります。
【最高の教師 1年後、私は生徒に■された】
(日テレ系・土曜22時~・主演:松岡茉優)
個人的評価:3.5/5
高校教師の九条里奈(松岡茉優)は、卒業式の日に学校の外廊下から何者かに突き落とされます。突き落とした人物の顔は見えないものの、その人物が腕に付けているコサージュには、自身が担任を務めていた「D組」の文字が。文字が見えた直後、九条はタイムリープして1年前の始業式の日に戻り、そこから、自分を突き落とした生徒を探り当てるための1年間がスタートします。
このドラマ、何と言っても俳優陣の演技が良かったです。
主演・松岡茉優とその夫・蓮役の松下洸平は、どんなドラマでどんな役をやっても最高に魅せてくれますね(秋ドラマでも大活躍です)。二人とも声色に温かみがあって、台詞を聞いているのが心地よいです。二人の会話劇は、やや日常離れした言い回しが多用された脚本であっても、すっと心に沁み入ります。
それから生徒役の俳優陣。山時聡真、當真あみ、窪塚愛流、奥平大兼などなど、実力のある若手俳優たちが、それぞれに個性と魅力のある演技で、毎回山場を作ってくれていました。
とりわけ、幼少期から知名度の高い芦田愛菜と加藤清史郎の二人には、驚嘆させられました。
芦田愛菜は、九条の一周目の人生では年度の途中で自死してしまう鵜久森役なのですが、二周目では九条の働きかけもあって一周目とは異なる行動を取り、九条のバディのような存在になります。
1話から大きな見せ場があって心をぐっと掴まれたのですが、白眉は6話でした。力強く生きていた二周目の鵜久森のもとに再び死の危機が訪れるのですが、この6話での芦田愛菜の立ち回りがすごかったです。冒頭のモノローグに始まり、九条や東風谷(當真あみ)との二人芝居、九条に向けたビデオメッセージと、様々な形での長台詞を見事に演じきっています。鵜久森がまとう達観した空気を見て、改めて「芦田さんはいったい人生何周目なんだ……?」と思わされました。
それから加藤清史郎。彼は殺伐とした3年D組のボス的な存在の相楽を演じていました。序盤は大声を出して、九条や鵜久森、他のクラスメイトに強い態度を取っていて、本当に胸糞が悪い存在ですが、上手い。顔を見たくないほど憎たらしいのに見入ってしまいました。
圧巻だったのは8話です。この時点でもまだ九条に反抗的な態度を取っていた相楽ですが、自宅に訪れた九条との対話を経て、徐々に虚勢が剥がれ落ちていきます。相楽の自意識が変化していく様子を演じる加藤清史郎の、間合いを恐れない演技がとても良かったです。長台詞であっても、次の台詞を発することを急がずに、その台詞を口にするに至るまでの心境の変化を表情で演じてから、言葉を継ぐ。俳優としてのキャリアの長さを感じる名演でした。
8話ラストの、鵜久森に向かってボロボロと涙を流しながら、ぐちゃぐちゃの顔で謝罪するシーンも、とても印象的でした。
演技は良かった一方、ストーリーにはいまいち乗り切れなかったというのが正直なところです。
これもドラマの一つの形ではあると思うのですが、製作陣の伝えたいメッセージが優先されていて、そこに後付けで物語を付けたような、ちぐはぐな印象を受けました。ただ、このドラマを見て救われた人は確実にいると思うので、自分がこのドラマのメッセージのターゲットではなかったということでしょう。
それよりも気になったのは、終盤に向かうにつれて九条の独裁体制か?というような雰囲気になっていったところでした。徐々に味方が増えていくタイプのドラマではあるあるですが、序盤は九条に反抗していた生徒たちが、終盤になると妄信的に九条に付き従っていく様は、見ていてやや恐ろしく感じられました。
もともと相楽らに迫害されていた日暮(萩原護)と眉村(福崎那由他)が、3話で相楽に「僕たちのことをちゃんとハブってほしい」(=もう干渉しないでほしい)と伝え、二人だけの世界で卒業まで生きていこうとする場面はこのドラマの一つの名場面だと思うのですが、日暮と眉村も中盤以降めちゃくちゃクラスに協力してるよなあ、という感じでした。
【ノッキンオン・ロックドドア】
(テレ朝系・土曜23時~・主演:松村北斗・西畑大吾)
個人的評価:3/5
「不可能」担当の御殿場倒理(松村北斗)と「不可解」担当の片無氷雨(西畑大吾)の二人の探偵がいる探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」。二人のもとには、「不可能」で「不可解」な事件の調査依頼が次々に舞い込みます。
このドラマ、1話がめちゃくちゃ良かったです。
タイトルが出るまでの数分間に、このドラマの世界観や雰囲気がギュッと詰め込まれているようで、期待度がぐっと高まりました。また、1話のエピソードを通じて二人のキャラクターや役割が分かりやすく説明されるのも良かった点です。ゴーイングマイウェイな性格で、犯行のトリック(=「不可能」パート)の解明を担当する倒理と、常識人だけど舐められやすい人柄で、犯行の動機(=「不可解」パート)の解明を担当する氷雨。この二人がタッグを組んでいる意味がよく分かる幕開けでした。
そしてfox capture planの劇伴が格好いい! ドラムスだけで盛り上がりを作る場面などもあり、非常にしびれました。
1話はとても良かった一方で、ドラマ全体としては消化不良感が大きかった印象です。
物語全体を貫くストーリーとして、大学時代に同じゼミに所属していた倒理、氷雨、穿地(石橋静河)、美影(早乙女太一)の4人の過去と現在が描かれます。過去では教室で席を並べていた4人が、現在では探偵(=倒理&氷雨)、刑事(=穿地)、犯罪コンサルタント(=美影)と道を分かち、倒理と氷雨は美影が出す謎を解きたがり、氷雨はなぜか倒理に殺されたがっています。
4人の謎多き関係性が序盤で少しずつ提示され、そして最終話で4人の現在を決定づけた過去の事件の真相が明らかになる、のですが、何だかどうにも腑に落ちきらない終わり方でした。最終話で過去の事件の概要と謎、その真相が剛速で提示されていき、気づいたら終わっていたという感じ。氷雨が倒理に抱いているクソデカ感情の中身をもっとじっくり描いてくれよ!!!と思ってしまいました。
30分×9話で尺が短かったという事情もあると思うのですが、しかし軸となる4人のストーリーはもっと尺を使ってでもしっかり見せてほしかったです。
夏ドラマ感想、以上です! 書き始めてみると書きたいことがたくさんあって、非常に時間がかかってしまいましたが、ひと通り振り返れて満足しています。
ラブコメ、サスペンス、お仕事物、BLなど多ジャンルに良作があって良いクールだったなあと思います。
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