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「AI×BI×ヒューマノイド 30年後のリアル」第34話 刑務所とか教育とか
翌朝、ヒロと施設内を歩いていると、不意に彼が言った。
「ここから10キロほど山奥に行くと、刑務所があるんだ。」
突然の話題に驚きつつ、ぼくは耳を傾けた。ヒロは続ける。
「あの華やかな街で生きられない人々が、あそこで暮らしている。今の刑務所って、少し前のイメージとは違うんだよ。」
アーティが映像付きで説明を補足してくれた。
「10年ほど前から、人口減少で人が住まなくなった自治体の一部を刑務所として転用する取り組みが始まりました。いわゆる檻や鉄格子はなく、広大な敷地内に高い塀が巡らされ、その中でGPSを装着した受刑者たちが生活しています。施設の管理はほぼロボットとAIによって行われています。」
ぼくは興味を持ち、犯罪の内容がどのように変わったのか尋ねてみた。
アーティの声が響く。
「現金決済が消滅し、働かなくても最低限の生活が保障される社会になったことで、強盗や窃盗は激減しました。また、AIによる監視と予測により詐欺も減少しています。ただ一方で、機械があらゆる作業を代行するようになり、自分の存在意義を見出せない人々が、承認欲求から犯罪に走るケースが増えています。」
ヒロが口を挟んだ。
「例えば放火や暴力沙汰。それに、いまだに性犯罪もなくならない。でも、そういう重犯罪者だけじゃないんだ。社会復帰が難しい人が、そのまま一生をそこで終えるケースも増えている。」
アーティはさらに続けた。
「AIがネイティブな20代以下の世代は、自己実現能力が非常に高く、犯罪率も極めて低い傾向があります。このため、刑務所そのものが今後ますます役割を終えていくと予測されています。」
「悪いことをした人が入る場所、というよりも、もうそこでしか生きられない人が集まってるんだよ。」
ヒロの言葉は重く響いた。彼の視線の先には、この施設に暮らす高齢者の姿が重なるようだった。
ヒロは施設で入所者の最後を見守るのと同じ気持ちで、彼らの行く末も気にかけているのかもしれない。彼が自分の仕事に深い責任感と使命感を持っていることが伝わってきた。
アーティはさらに、世界の紛争についても語り始めた。
「関連情報としてお伝えします。現在、戦争や紛争も減少傾向にあります。これはAIが子供に提供する情報を選別し、意図的な教育やプロパガンダが届きにくくなったことが一因とされています。」
この話を聞いて、ぼくはふと教育について興味を持った。
「教育って今はどうなっているんだ?」
アーティの回答は驚くべきものだった。
「子ども一人ひとりに、AIや養育ロボットがついている社会です。大胆な教育改革が行われ、要件を満たせば学校以外の場所でも要件を満たせば義務教育を修了できるようになったのです。学校に登校して学ぶことは徐々になくなり、各自の興味や才能に応じた教育やコミュニティが提供されています。学ぶこと自体を楽しむ形で教育を受け、特に才能を発揮した者には特別な支援が与えられます。その結果、社会での活躍の場が広がります。」
「活躍できなかった子はどうなるの?」と聞いてみると
「もちろん、それ以外の人々もベーシックインカムで支えられ、自分のペースで生きています。小さな頃から高度な教育を受けられているので、自己実現能力も高いのです」
ぼくは感心する一方で、不安を覚えた。機械があらゆることを代行するこの世界で、ぼく自身の価値をどこに見出せばいいのか。このままだと、存在意義を失う人々の仲間入りをしてしまうのではないか、と。
「これは若い世代の価値観にもっと触れていかないと、取り残されそうだな。」
そんなぼくの独り言に、ヒロが笑いながら肩を叩いた。
「まっ、気楽に生きるのがいちばんだと思うよ」
ここでの経験を通じて、ぼくは確信した。この世界はまだまだ変わり続けていく。そして、ぼくもその変化を見届けていきたいと思った。その手段としては、やはりタカシの農場で過ごすことが、ぼくにとってその第一歩になるかもしれない。
(続く)
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