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英語語源辞典通読ノート B (both-bow) #hel活

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。Bから始まる単語、今回はp143からp149まで。


both

both” の語源を遡ると、中英語 bothe は古ノルド語 báðir からの借入である。これはゲルマン祖語 *bai, *bōs, *ba から発達しており、印欧祖語 *ambhō に由来する。”-th” の部分はもともと定冠詞 “the” に相当するらしい。この構造はドイツ語 “beide”(bei-de)にも同様に残っている。前半の “bo-” に相当する部分は古英語では bēġen, bā が用いられていたようだが、借入語に取って代わられたようだ。

bottle¹, butler

bottle¹”(びん)の語源を遡ると、中英語 botel は古フランス語 botele, boteille からの借入である。これは中世ラテン語 butticulam から発達しており、後期ラテン語 buttis(樽) の指小形に由来する。この語は英語 “butt¹”(大樽)の語源でもある。語尾の ”-le” の部分は指小形の名残と見て良さそうだ。中世ラテン語 buttis 以前の語源は不詳らしく、印欧語根からの発達とは見られていないようだ。

これらに関連する語が “butler”(執事)である。中英語 boteler, buteler はアングロフレンチ語 butiller, buteler からの借入で、古フランス語 bouteillier(酌取り、酌人)に対応する。この語は上述の bo(u)teille から派生しており、ここで “buttle¹” と合流する。酒を詰めた樽、その指小形としての酒瓶、そして瓶を持って酒を注ぐ給仕として語源のつながりはイメージしやすい。

ちなみに、”bottle¹” に対応する古英語 flasċe があるが、これは英語 “flask” として一応残っている。

bottom

bottom”(底、下)はなんと “fund”(基礎)と同根であった。

”bottom” の語源を遡ると、中英語 botome, bothom は古英語 botm, boþm、そしてゲルマン祖語 *buþmaz, *buþnaz から発達している。これは印欧語根 *bhudh-(底、土台)に由来するが、この語根はラテン語 fundus(基礎)の語源であり、fundus が英語に借入された形が “fund” である。印欧祖語の “bh” 音がゲルマン語派では “b” に、ラテン語では “f” に変化しており、これもグリムの法則の一例である。

子音の位置関係が “b-t-m” と “f-n-d” では対応していないように感じられるが、ラテン語 fundus はもともと *fudnos だったのが音位転換で子音の位置が入れ替わったと見られているようだ。fudnos のままだとすると “bottom” とかなり近く思える。

bound¹

“bound¹”(境界、領域)の語源を遡ると、中英語 bound(e) はアングロフレンチ語 bounde の借入で、古フランス語 bun(n)e, bone, bunde, bonde, bodne に対応する。かなりばらついているが、これらは中世ラテン語 bodinam, butinam から発達しており、それ以前の語源は不詳である。KDEEではケルト語派に由来する説を挙げている。

古フランス語までは語尾の -d があったりなかったりするが、この起源は “bound³”(〜行きの)とも関連しているらしい。KDEEによれば、今は廃語となっている古い動詞 “boun” の過去分詞との誤解や、”bind” の過去分詞である “bound⁴” との混同などによる、非語源的な添加と見られているようだ。

ちなみに、古フランス語 bodne から発達した borne が近代英語に借入された “bourn²”, “bourne²”(廃語義: 限界、境界)は “bound¹” と二重語であり、こちらには -d がついていない。

bow

KDEEには “bow¹”(虹、弓), “bow²”(曲がる、曲げる、頭を下げる), “bow³”(船首部、へさき)の3つが同綴異義語として立項されている。このうち “bow¹” と “bow²” は同根語であるが、“bow³” は語源的な関係はない。

“bow¹” の語源を遡ると、中英語 boue は古英語 boga 、そしてゲルマン祖語 *buȝōn から発達している。*buȝōn は動詞の *beuȝan(曲げる)からの派生であり、これは “bow²” と共通の語根である。“bow²” の古英語 būgan は *beuȝan からの発達で、これは印欧語根 *bheug-(曲げる、曲がる)に由来する。

一方の “bow³” の語源を遡ると、中英語 bou(e) は低地ドイツ語 Boog からの借入で、ゲルマン祖語 *bōȝuz に由来する。同じく *bōȝuz に由来する本来語 “bough”(枝)と二重語の関係にある。KDEEによれば、”bow¹”, ”bow²”との間に語源上の関係はないものの、一般には “bow²” と連想され影響を受けたと考えられるようだ。


今回はここまで。少しネタに困る、穏やかなページだった。次で bo- シリーズが終わり、br- に突入しそうだ。

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