見出し画像

英語語源辞典通読ノート B (bulk¹-butter)

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。Bから始まる単語、今回はp171からp181まで、そしてBは読了となります。p89からの92ページ、長かった…


bulk¹

bulk¹”(大きさ、大きいもの)は複雑な語源を持つようだ。中英語 bulk, bolk(e) 以前にはもともと意味も違う3つの別々の語だった。

  • 廃語義1「積荷」: 古ノルド語 bulki(積荷)からの借用

  • 語義3「大きいもの、巨大な体」: 語源不詳。中英語 bouk の変形か。これは古英語 būc(腹)、ゲルマン祖語 *būkaz に由来する。

  • 語義2「大きさ、かさ」: 1と3から影響を受けた転用

古ノルド語 bulki とゲルマン祖語 *būkaz はどちらも印欧語根 *bhel-(ふくらむ)に由来しており、結局は同根と想定される。同じ語根から分かれて発達した「積荷」と「腹」が英語では一語になってしまったのを見るに収斂進化という感じもある。

bulldoze

bulldoze”(おどしつける、ブルドーザーで均す)の意味の成り立ちはアメリカでの歴史的経緯にある。語源は不詳だが、”bull¹”(雄牛)と “doze” から成るとみられ、”doze” の由来も不詳だが “dose”(投薬)からの変形とみられる。“dose” には方言で「殴りつける」という意味があったようだ。

初例は1876年で、アメリカで黒人を罰するために牛を打つような鞭を用いたことから、「脅しつける」という意味でこの語が生まれたようだ。悲しい歴史である。そこから “bulldozer” は「威嚇者」を意味し、1881年の用例では「リボルバー(拳銃)」を意味したこともあるようだ。その後、重機の「ブルドーザー」の意味で使われるようになるのは1930年が初例である。力任せに土を押し出す様子が鞭を振るって押し通る威嚇者を連想させたのだろうか。なんにせよ、この語に牛そのものは関係していない。

bun¹, bun²

bun¹”(小型で丸いパン)は中英語期に流入した語で、語源不詳である。日本ではハンバーガーに使われる「バンズ」という形で見ることが多い。中英語 bunne は古フランス語 bugne(吹き出物、こぶ)からの借入だとする説があり、フランス語の方言では「パンケーキ」を意味する。古フランス語以前の語源も不詳だが、KDEEではケルト語に由来する説を挙げている。

ところでKDEEに立項されている “bun²”(リス、ウサギ)もまたケルト語にルーツを持つと見られている。この語はスコットランド/アイルランド方言で、語源不詳だがゲール語 bun(根、切り株)に由来すると推測されている。ゲール語からの借入であればこちらもケルト語にルーツを持つことになる。ちなみに英語 “bunny” はこの “bun²” から派生した小児語である。英語として一般的な ”rabbit” ではなく方言の “bun” から派生することになったのはどういう要因があるのか少し気になるところだ。

buoy

buoy”(浮標、ブイ)を英単語だと意識したこともなかったが、綴りを見ても英語っぽくないように感じる。語源を遡ると、中英語 boi(e) は中期オランダ語 boeie からの借入で、これも古フランス語 boie(足かせ)からの借入である。これ以前の語源は不詳だが、KDEEに掲載されている説では後期ラテン語 boiam、ラテン語 boiae(首輪)に由来し、ギリシャ語 boeīai(牛革の紐)からの借入、そしてついには boûs(牛)にたどり着く。つまり “beef” や “cow” と同根である可能性がある。

語源から現在の意味にどのように変化したのかが気になるが、KDEEでは「足かせ、束縛」といった意味から「重りをつけてつなぐ」へ変化したと推測している。しかし、これとは別の語源説では古フランス語 boie をゲルマン祖語 *bauknam(信号)に由来するものとし、英語 ”beacon” と同根とする説も有力らしい。こちらの説であれば現在の「ブイ」の意味とは距離が近いように思える。しかしどちらの説にせよ意外な同根語である。

burial, bury

burial”(墓地、墓)は “bury”(埋葬する)に -al 接尾辞がついた派生語ではない。もちろん派生語ではあるが、成り立ちは別である。

“burial” の語源を遡ると、中英語 biriel, buriel はもともと biriels, buriels であり、古英語 byrġels から発達している。語尾の -s が中英語期に複数形だと誤解した異分析により、単数形として -s を除いた形が逆成されている。この流れは “assets” から “asset” が逆成された流れもみたが、よくあるパターンだ。語尾の -el が -al に変化したのも “bury” を名詞化する接尾辞であると誤解されたことによる流れだろう。誤解されまくりの語である。

“bury” の語源を遡ると、古英語 byrġan はゲルマン祖語 *burȝjan から発達しており、*burȝ- 語根から派生している。これは印欧語根 *bhergh-(隠す、守る)に由来する。同根語としては以前に取り上げた “bargain”(取引) や “borrow”(借りる)などがある。”bargain” のときにも思ったが、取引や賃借に関連する語に派生していく意味変化の過程は想像しにくい。

bus

bus”(バス)は “omnibus” の省略形だった。衝撃である。

英語 ”omnibus” は1829年に初出で、「乗合馬車」を意味した。”bus” の初例は1832年らしいから、新語があっという間に略されて定着したようだ。語源を遡ると、フランス語 [voiture] omnibus(皆のための[馬車])からの借用で、「馬車」を指していた部分が抜けて “皆のための” だけが英語に「乗合馬車」として残ったようだ。本来の意味的な核心部分が抜け落ちてしまっているのは “train of waggons” から ”train”(列車)になったのと似たパターンである。20世紀初頭までは省略形であることがまだ忘れられておらず、 ’bus のようにアポストロフィーをつけていたらしい。

ちなみに、フランス語 omnibus もラテン語からの借用で、omnis(すべて)の複数形与格である。”bus” だけ取り出されてもまったく意味がない。

busy

busy”(忙しい)は語源不詳である。古英語 bisiġ, bysiġ 以前の語源はわかっていない。この語といえば綴りと発音のミスマッチだが、これは中英語期の方言に由来する。中英語期には busy, besy, bisy と綴られており、中東部方言の発音と中西部・南部方言の綴りが合わさって現在の “busy” ができている。中英語話者に今の英語を読ませれば “busy” と文字通り発音するのだろう。逆になぜ近代英語ではこのミスマッチをどうにかしようという流れにならなかったのかという方が気になるところだ。

butter

Bを締めくくるのはこの語だ。“butter”(バター)は “beef” はなんと同根である。語源を遡ると、古英語 butere はラテン語 būtȳrum からの借用であり、これもギリシャ語 boútūron からの借用である。boútūron は boûs(牛)と tūros(チーズ)から成り、boûs に由来する語は同根ということになる。おそるべし boûs の影響力。



今回はここまで。なんとか英語史ライヴ2024までにBまで読み切ることができてよかった。とはいえまだまだ先は長いのでCのセクションに進まなくてはならない。Cはざっと130ページほどはあるようで、だいぶ長かったBよりもかなり長いし、実はA-ZのうちA,B,Cだけで全体の30%くらいはある。物量に負けないようにがんばっていきましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?