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英語語源辞典通読ノート C (coil¹-complicate)

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。今回はp248からp259まで。


coil¹, collect

coil¹”(ぐるぐる巻く、渦巻き)は電子回路の「コイル」でおなじみ。語源を遡ると、英語での初出は1611年で、古フランス語 coillir(選び取る、摘む)からの借入である。coillir は中英語期にも coile(n) として借入されており、こちらは現代英語 “cull” の語源になっている。つまり “coil¹” と “cull” は二重語である。

古フランス語 coillir はラテン語 colligere(集める)からの発達である。音と意味から推察されるとおり、これは英語 “collect” と関係する。“collect” の語源を遡ると、中英語 collecte(n) はラテン語 collēctus から派生しており、これは colligere の過去分詞形である。つまり、”coil¹” と “collect” は同根であるといえる。ぐるぐる巻く動作も糸を集めていると思えなくはない。

KDEEによると、“collect” はその成り立ちから過去分詞として用いられていたが、のちに現在形に転用されたらしい。語源だけで考えたら “collected” は二重に -ed がついているようなものだ。

column

column” は一見すると関係しない語義が共存する不思議な語である。1425年以前からの最初の意味は「口蓋弓(口を開いたときに見えるアーチ状の部分)」であり、1440年には新聞や印刷物の縦の欄を意味し、1449年以前には建築用語での円柱、1785年には新聞や雑誌のコラムを表すようになった。これらの意味がなぜひとつの単語に収まっているのか、共通点はなんだろうか。

語源を遡ると、中英語 columnpne, colamne は古フランス語 columpne からの借入である。これもラテン語 colum(p)na からの借入であり、印欧語根 *kel-(張り出す、目立つ)に由来する。つまり、特定の形というよりは他と際立って目立つ部分というのが原義なのだろう。同じくラテン語由来の “excel”(卓越する)もこの *kel- に由来する。また、この印欧語根 *kel- から発達したゲルマン語由来の単語は “hill”(丘、小山)である。やはりこちらも、原義は突き出していて目立つものということだろう。

command, commend

command”(命令する)と “commend”(褒める、推薦する)は二重語である。”commend” は re- 接頭辞がついた “recommend”(推薦する)がカタカナ語でもよく使われている。

command” の語源を遡ると、中英語 commaunde(n) は1300年以前、古フランス語 comander からの借入である。comander は俗ラテン語 *commandāre からの発達で、これはラテン語 commendāre(〜に委ねる、推薦する)に対応する。この commendāre が中英語 commende(n) として1350年前後に直接借入されたのが “commend” の語源である。短い期間でどちらも英語に入ったようだ。

KDEEの “commend” の解説を読むと、古フランス語 comander には「褒める」と「命令する」の両方の意味があったらしい。英語でも “command” がはじめは両方を意味していたようだが、後に “commend” と意味を分けて定着したようだ。この両義性は日本語のイメージからはなかなか掴みづらいが、ラテン語的には近い概念ということなのだろう。

common

common”の語源を遡ると、形容詞用法「共通の、一般の」の初例は1300年以前で、中英語 comyn(e), commun(e) は古フランス語 comun からの借入である。comun はラテン語 commūnem, commūnis(共通の、公共の)からの発達で、印欧語根 *komoini-(共有された)に由来する。*komoini- はさらに *kom-(「共に」の意)と *moin- に分解され、*moin- は *mei-(変わる、行く)に由来する。同じ語根に由来するのは “migrate”(移動する)や “mutation”(変異)などだ。構成要素はシンプルなものの、どうして「共に移動する」のような原義から「共通、公共」といった意味になったのかいまいちつかみにくい。

complex, complicate

complex”(複雑にする、複雑な)と “complicate”(入り組んだ、複雑な)は意味もよく似ていて使い分けにも困るが、語源も同語根である。なぜ別々に存在するのだろうか。

complex” の語源説は2つあり、動詞用法では中英語 complexe(n) はラテン語 complexus からの派生で、これは complecti(一緒に折り畳む)の過去分詞形である。complecti は com-接頭辞と ラテン語 plectere(編む、ねじる)から成り、plectere は印欧語根 *plek-(編む)に由来する。もうひとつの形容詞用法での語源説は、近代英語にフランス語 complexe が借入されたとするもので、これもラテン語 complexus からの借入、それ以降は1つ目の説と同じである。

なぜこの2つの説が分かれているかというと、動詞用法(これ自体があまり馴染みがないが)の語義が、15世紀の初例「合体させる、一体にする」と17世紀の「複雑にする」とで大きく乖離しているからだろう。中英語期にラテン語から取り入れたものの一度廃語となり、その後フランス語から改めて違う意味で再借入することになったと思われる。

一方の “complicate” も1621年が初例で、ラテン語 complicātus からの派生である。これは complicāre の過去分詞形で、com-接頭辞と ラテン語 plicāre(折り畳む)から成る。こちらも印欧語根 *plek- に由来しており、結局 “complex” と同根ということになる。

編み込まれた複雑さと、畳み込まれた複雑さ、というニュアンスの違いがあるのだろうか。あったとして、それは今でも残っているのだろうか。



かなり減速気味ですが、まだcom-も続き、その後にはcon-も控えています。春が来る前にco-の山を越えられるのでしょうか。


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