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英語語源辞典通読ノート C (cardinal-cart)

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。Cから始まる単語、今回はp197からp200まで。


cardinal

cardinal” は古英語後期から中英語初期あたりに借用された単語である。名詞用法「枢機卿」のほうが歴史が古く、初出は1126年以前でカトリック用語として後期ラテン語 cardinālis から借用されている。形容詞用法「きわめて重要な」はそれより遅れて14世紀以前の初出となり、中英語 cardinal は古フランス語 cardinal またはラテン語 cardinālis からの借用である。枢機卿が重要な役割であることからの意味発達だろう。

どちらの語源もラテン語 cardin-, cardo(蝶番)から派生している。それより前の語源は不詳だが、KDEEでは印欧語根 *(s)kerd-(振り向く、回る)に由来する説を挙げている。蝶番は確かに壊れては困る重要な部品だが、面白い意味の派生だ。

“cardinal” には形容詞で「深紅色の」という意味があるが、これは1879年からの用法である。KDEEによれば枢機卿が身につける緋色の衣と帽子から連想され、色そのものを指すようになったらしい。これも面白い。

care

衝撃的だが、“care”(注意、世話)は “cure”(治癒)と語源的にまったく関係がない。語源を遡ると、古英語 caru, cearu はゲルマン祖語 *karō から発達しており、印欧語根 *gar-(呼ぶ、泣く)に由来する本来語である。一方で “cure” は中英語期に古フランス語から借入された、ラテン語由来の語である。

語源的には関係ないものの、KDEEによれば原義にない「世話、保護」の意味は形のよく似た “cure” から影響を受けて英語で発達した意味だと考えられるようだ。

carriage, carry

carry”(運ぶ)の語源を遡ると、中英語 carie(n) はアングロフレンチ語 carier の借入で、古ノルマン語 carre(車)に由来する。英語 “car” と同語源で、古ノルマン語以前の語源については同じである。また、実は英語 “charge”(重荷、装填する)と二重語である。

関連語として “carriage”(運搬、運搬車)があるが、こちらも古ノルマン語 cariage から中英語への借入で、もちろん同語源である。面白いのは、英語では「運ぶもの」を指す能動の意味と、「運ばれるもの」を指す受動の意味がどちらもあることである。荷物を指すこともあれば車を指すこともある。こういう多義語は珍しい気がする。

cart

こちらも驚きだが、“cart”(荷車、手押し車)は “car”(車)と語源的にまったく関係がない。語源を遡ると、中英語 carte は古英語 cræt からの発達か、古ノルド語 kartr からの借入とされる。これらは印欧語根 *ger-(曲がった)に由来する。どのように意味が発達したのかはKDEEには書かれていないが、どうもこの語の意味は荷車の機能ではなく「かご」としての形状に重心があるように思う。囚人を市中引き回して処刑場まで運ぶための囚人車という意味もあったようだし、英語 “cradle”(幼児用のゆりかご)も同じ印欧語根 *ger- に由来する。


ようやく car- ゾーンが終わり、次回から cas- ゾーンに入る。深堀りしがいのある語が多く今回も進みが遅い。

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