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英語語源辞典通読ノート C (charter-chief)
研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。今回はp219からp222まで。
charter
“charter”(特許を与える、借り切る)は不思議な意味変化をしている。まずが語源を見てみると、後期古英語 chartre は古フランス語 c(h)artre からの借入で、これはラテン語 chartulam からの発達である。chartulam はラテン語 charta(紙、海図)の指小辞形で、charta は英語 “card²” や “chart” の語源でもある。原義は「小さな紙」といったところか。“card²” と ”chart” が二重語であることは以前に触れている。
では「小さな紙」からどのように今のような意味になったのだろうか。最も古い後期古英語(1000年以降)の語義は「勅許(状)、特許状、許可状」とある。古フランス語から英語に取り入れられた段階ですでにかなり現代に近い意味がある。かなり権威とセットの概念だし、これは勅許や特許といったシステムそのものがノルマン・コンクエストでブリテン島に新たに持ち込まれたんじゃないかと想像している。その後1400年以前には「宣言書、憲章」、1565年には「(公認された)特権」といった意味でも用いられている。このあたりから物体としての意味は薄れて、認可それ自体が意味の中心にありそうだ。いわゆる「チャーター便」のように船などを借り切る契約を意味するようになったのは1794年とだいぶ最近である。この意味変化はあまり直感的ではなく、いまいちしっくりこない。貸し切り=特権的に使用できるということで連想されたのだろうか?
cheap
“cheap” といえば「安い」という意味の形容詞だが、驚くことにこの語の形容詞としての用法は1509年が初出ということで、だいぶ新しい。古英語には ċēap という単語があったが、これは「値段、売買、市場」を意味する名詞だった。これを元に、古フランス語の à bon marché(良い市場)をなぞって中英語に at god chep(e) というイディオムが生まれた。そして近代英語になり good cheap から good が省略され、”cheap” 単独でいい取引、転じて安価であることを意味するようになったようだ。もともと「安さ」を意味していたのはむしろ “good” のほうだと思うのだが、修飾される側の “cheap” が形容詞に転じるのはなんともいえないおかしさがある。
語源を遡ると、古英語 ċēap は西ゲルマン語 *kaupaz からの発達で、これはラテン語 caupō(小商人、宿の経営者)からの借入らしい。*kaupaz はドイツ語の Kauf(売買), kaufen(買う) などの語源でもあり、”cheap” の原義にも近いし言われてみれば音も近い。
check, chess
“check”(チェック)といえば日本語に溶け込みすぎているカタカナ語だが、なんとペルシャ語由来だ。語源を遡ると、中英語 chek は古フランス語 eschec から借入され頭音消失した形である。eschec はもともと *eschac という形だったと再建されており、これは中世ラテン語 scaccum からの発達である。scaccum はアラビア語 šāh の借入、そして scaccum はペルシャ語 shāh(王)の借入である。
なぜ「王」が “check” の語源になるのかといえば、チェスのキング、転じて王手を意味する用語がアラビア語を通じて伝わっているからである。ということで言わずもがな、“chess”(チェス)の語源も同じである。古フランス語 eschec の複数形 esches が同様に借入され、中英語 ches となった。語源的には、”check” の複数形が “chess” である。
“check” の意味変化を追っていくと面白い。英語では1300年以前にはチェスの「王手」の意味で使われており、転じて14世紀には「攻撃」や「阻止」といった語義があった。また1400年以前にはチェス盤の「市松模様」の意味にもなる。「照合する」の意味が生まれるのは1695年とかなり近代になってからだ。KDEEだけではわからないが、王手をかけられたあと詰みかどうかを確認する作業から連想されていたりするのだろうか?
chef, chief
“chef”(シェフ)は綴りと音からしてフランス語由来である。初出は1842年で、語源を遡るとフランス語 chef からの借入、これは chef de cuisine の略らしい。英語でいえば “chief of kitchen” である。「料理長」の「料理」が抜けて「長」だけになった形だ。これで料理長を意味してしまえるのがフランスの美食の国たる所以ということだろうか。
では英語 “chief” の語源を遡ると、初出は1300年以前で中英語 chef は古フランス語 chef, chief からの借入である。これは俗ラテン語 *capu(m)からの発達で、ラテン語 caput(頭)に由来する。久しぶりの caput 族の登場である。つまり “captain” と “chef”, “chief” は同語源と言っていいだろう。特に “chef” と “chief” はどちらも古フランス語 chef に由来する二重語である。英語化の時期によって ch の発音が違うのはフランス借入語あるあるである。詳しくはhellogを参照。
che-から始まる項が終わり、次からは chi- に入ります。