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英語語源辞典通読ノート C (canyon-card²)

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。Cから始まる単語、今回はp192からp196まで。


canyon

canyon”(峡谷)は1834年が初出の新しい語である。アメリカンスパニッシュ cañón の借入で、ラテン語 cannam(葦、茎)に由来する。英語 “cane” と同語源であり、つまり “canal”(運河)とも同語源である。 いわれてみれば水の有無の違いだけで地形としては似たようなものかと思わされる。

cap

cap”(頭巾、縁なし帽)は古英語期にラテン語から取り入れられた借入語である。語源を遡ると、古英語 cæppe は後期ラテン語 cappa の借入で、これはラテン語 caput(頭)に由来する。後期ラテン語 cappa は多くの言語に同族語があり、その中でもポルトガル語 capa は日本語「合羽」の語源である。言うまでもなく “cape¹”(ケープ、肩掛け)も同語源であるが、意外なことに “cape²”(岬)も caput に由来する同語源である。KDEEにこの「頭」から「岬」への意味変化について書かれてはいないが、海に突き出した形が頭に見えたのだろうか。

解説を読むと興味深いことが書いてあり、英語 “chapel”(礼拝堂、チャペル)と同語源であるとのことだ。”chapel” は古フランス語 chapele からの借入で、これは中世ラテン語 cap(p)ellam(外套、頭巾)に由来するが、この cap(p)ellam は後期ラテン語 cappa の女性形指小辞である。なぜ外套や頭巾から礼拝堂を意味するようになったかというと、KDEEによれば守護聖人である聖マルティヌス(トゥールのマルティヌス)の外套を聖遺物として保管していた聖域のことを指していたかららしい。

capital, cattle, chattle

capital¹”(主要な、資本の)の語源を遡ると、中英語 capital は古フランス語からの借入で、これもラテン語 capitālis(頭の)の借入である。この語はラテン語 caput(頭)に由来する。これは特に想像を裏切らない話だが、KDEEにはさらに英語 “cattle”、”chattle”と三重語であることがさらっと書かれている。

cattle”(家畜)の語源は、中英語 catel がアングロフレンチまたは古ノルマン語 catel の借入で、古フランス語 chatel に対応する。これは中世ラテン語 capitāle(財産)から発達しており、ラテン語 capitālis に由来する。もともとは財産を意味し、中英語期の主な意味も「動産」だったようだ。そこから特に家畜を指すようになったようだ。

chattle”(動産)もほとんど同じだが、中英語 chatel は古フランス語からの借入で、中世ラテン語 capitāle に由来する。こちらは古ノルマン語を挟まずに直接英語に取り入れられたようだ。”capital” はともかくとして、”cattle” と “chattle” は近すぎてどちらも生き残ったのが不思議である。とはいえ、意味が狭くなった “cattle” のほうがまだ比較的使われる語で、”chattle” のほうはなかなか見ない語になってしまったのは、ニッチを攻める生存戦略のほうが強いということだろうか。

caption, capture

caption” といえば今では写真や図表の説明文や見出しを指すが、もともとの意味は「捕獲」である。語源を遡ると、中英語 capcioun は古フランス語 capcion の借入で、これもラテン語 captiō(n-) の借入である。これはラテン語 capere(取る、捕まえる)の過去分詞形 captus から派生している。

KDEEによると、現在の主な意味である「頭書」や「見出し」はラテン語 caput(頭)から連想されたものらしいが、この語は caput とは語源的に関係しない他人の空似である。綴りが似ていて勘違いされてしまい、今では原義で使われることはほとんどないだろう。

言い換えれば、“caption” は英語 “capture”(捕獲)や “captive”(捕われた)などと同語源である。特に “capture” とはかなり近い。英語での初出は16世紀と新しく、フランス語 capture からの借入である。これもラテン語 captūra からの借入で、ラテン語 capere の過去分詞形 captus に遡る。元になったのはどちらも captus である。ラテン語内で派生した後に借入されているので二重語とは言えないと思うが、いとこくらいの近さである。

car

car”(車)はかなり複雑な歴史を辿って英語に入ってきたようだ。語源を遡ると、中英語 carre はアングロフレンチまたは古ノルマン語 carre からの借入である。carre は俗ラテン語 *carra(m) から発達しており、ラテン語 carrum(二輪の馬車)に由来する。さらに、carrum はケルト語 *carros の借入で、印欧語根 *kers-(走る)に遡るという。ケルト語からラテン語への借入語というなかなかレアなケースだ。KDEEによると、ローマ時代にユリウス・カエサルがはじめてケルトの戦車について carrum を用いたとされる。

印欧語根 *kers- に由来する同根語には “carry” や “course”、”current” などがある。”carry” は “car” と同じく古ノルマン語 carre に遡りケルトの血が入っているが、”course” と “current” はラテン語本来の currere(走る) に由来するため、出発点は同じだが経路が違うことに注意したい。

card²

card²”(トランプ、カード)は “chart”(地図、図表)と二重語である。語源を遡ると、中英語 carde は古フランス語 carte が借入されて変形した。 これはイタリア語 carta の借入であり、これもラテン語 charta(パピルスの葉)からの借入である。さらにこれもギリシャ語 khártēs からの借入で、それ以前の語源は不詳だがKDEEではエジプト語に由来する説を挙げている。

chart” のほうは、同じくラテン語 charta に由来するが、イタリア語を挟まずに古フランス語で発達した charte が中英語に借入されたものである。16世紀ごろにはどちらも「地図、海図」といった意味で同義語として使われていたようだが、”card²” のほうではそれらは廃語義となっている。


前回に続き、おもしろい語源が多くて進みが遅い。まだしばらく ca- です。

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