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英語語源辞典通読ノート B (bat-beam) #hel活

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。Bから始まる単語、今回はp104からp108まで。

KDEEの新装版の発売もありました。おめでとうございます!


bat², batter, battle

bat²”(球戯用バット、棍棒、煉瓦などの塊)は不思議な語のようだ。語源は古英語 “bat(t)” より前が不詳らしい。ケルト語 “*bat(a)” に由来するという説があるが、KDEEは懐疑的なようだ。そして、名詞として2番目に挙げられている「塊」の意は後から発生したようだが、どのように生まれたか不明とのこと。ルーツが全然わからない語のようだ。
“bat²” には動詞の「(棒などで)打つ」という意味もある。こちらの語源を見ると、中英語 “batte(n)” は古フランス語 “batre”(打つ、乱打する)からの借入であるとする経路と、名詞の “bat²” から派生したとする経路の2つが並べられている。前者の場合、名詞と動詞で語源が別ということか。

関連して、”batter”(乱打する)という単語があるが、これは “bat²” からの派生語ではない。ともすれば、少なくとも名詞の “bat²” とは語源的に関連しないとまで言えるかもしれない。
元となった中英語が “bat(e)re(n)” であり、”batte(n)”とは違う。“bat(e)re(n)” はアングロフレンチ語 “baterer” からの借入であり、これは古フランス語 “batre” からの派生である。動詞の “bat²” とはここで合流する可能性はある。”batre” は俗ラテン語 “*battere” から発達しており、ラテン語 “battuere” に対応する。この先の語源は不詳だが、KDEEでは “bat²” と同じくケルト語と関連する可能性を挙げている。ケルト語を介してすべてつながれば平和(?)なのだが、そうでないならまったくもって驚きの他人の空似ということになりかねない。

ところで、”b”から始まり「打つ」といえば “beat” が思い浮かぶが、ここまで全く関連語に上がっておらず、語源的にはかすりもしないようだ。なんということだ。もし “bat²” がケルト語派、あるいはゲルマン語派のどこかに由来するなら印欧語根 “*bhau-”(打つ)で合流できるかもしれないが、不詳なのでなんともいえない。こんなに原始的な動作の語なのに(だからこそだろうか)語源は謎が多い。

bat², batter, beatの関連図


ちなみに、”battle”(戦闘、軍隊)も “batter” と同根である。ラテン語 “battuere” から後期ラテン語 “battuālia” に派生し、俗ラテン語を介して古フランス語 “bataille” に発達したものが、中英語 “batail(le)” として借入されたのが英語 “battle” である。打撃のイメージと戦いが接近するのはわかりやすい。

batch¹

batch” はコンピュータ用語としてはデータやファイルをひとまとまりにして処理する「バッチ処理」でおなじみだが、英単語として元々の意味は「(パンや陶器などの)一焼き分、一窯分」ということらしい。ということで、実は “bake”(焼く)と同語源である。

中英語 “bach” は古英語 “*baċċe”(焼くこと)から発達しており、”bacan”(焼く)から派生している。これは英語 “bake” の項でも登場した語である。

KDEEの解説では、”batch”-”bake” の関係は “watch”-”wake”, “match”-”make”, “speech”-”speak” と関係すると補足されている。他のペアは確かに意味的に繋がりがわかりやすいが、”batch”と”bake”はコンピュータ用語のほうに馴染みがあるとなかなか気づかにくそうだ。

ところでKDEEでは "batch¹" が立項されているが、どこにも "batch²" はない。KDEE七不思議のひとつに数えておこう。

be, be-

最重要単語のひとつ “be”(ある)の語源については、印欧語根 “*bheuɘ-” からグリムの法則が見て取れるということ以外は、順当にゲルマン祖語から発達しただけであまり特筆する特徴はない。だがおもしろいのは活用形それぞれの語源について書かれた解説部分である。長いので全部は書かないが、”be”, “been”, “being” / “am”, ”is” / “are” / “was”, “were” はそれぞれ語根が違うことが詳しく書かれている。しかもただ別語源というだけでなく、中英語期の方言による影響も強い。おそらくKDEEではかなり簡略化したことだけが書かれており、うかつに踏み込むとやばいことだけがわかる。
be動詞の屈折についてはhellogでもいくつか記事があり、あわせて読むと良さそうだ。

ところで、”become” や “behind” といった語でおなじみの ”be-” 接頭辞はまったく別の語根を持ち、”be”とは語源的にまったく関係ない他人の空似である。“able” と “-able” のときにも見た構図だ。
古英語 “be-”, “bi-” はゲルマン祖語 “*bi” から発達しており、印欧語根 “*bhi-”, “*ambhi-” に由来する。これは英語 “by” と同根である。また、”ambi-”接頭辞や “amphi-” 接頭辞とも同根である。

beach

beach”(浜)の語源は驚きである。なんと中英語期の形すらわかっていない。日常的に見る単語でここまで語源不詳なものは初めてだ。KDEEから一部引用する。

16-18Cにはbache, baich(e)の綴りも見られるので、当時の発音は /béːtʃ/ であったと想定され、これからOEの形を想定すれば *bǣċe となる。しかしそれに当たる語はOEにもMEにも例証されない。

KDEE p108

さまざまな説があるようだが、どれも決め手にかけるようだ。

beam

beam”(梁、光線)はおそらく “be” と同根である。古英語 “bēam”(樹木、材木、光線)の語源は不詳ではあるがKDEEではゲルマン祖語 “*baʒmaz” に遡るとし、その語根も不詳ではあるが印欧語根 “*bheuə-”(存在する、成長する)としている。この語根は “be” と同じである。
原義からは「成長するもの」から「樹木」を指していたと考えられるが、その意味は現代では他のゲルマン語派のドイツ語やオランダ語も含めて基本的に失われているらしい。


今回はここまで。"ba-"シリーズが終わり、"be-" シリーズに入ったがここからがBの本番な予感がする。


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