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英語語源辞典通読ノート B (breeze¹-brief) #hel活

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。Bから始まる単語、今回はp158からp161まで。


breeze¹

breeze¹”(そよ風) と “breath”(息、呼吸)は少し似ているがまったく関係がなさそうだ。“breeze¹” の語源はかなり不詳で、本来語ではないようだが借入元がわかっていない。KDEEでは古スペイン語、ポルトガル語 briza(北東風)を語源説として挙げているが、その先の語源もまた不詳である。

brethren

brethren”(”brother”の特殊複数形)は、16世紀末までは “brother” の複数形として標準的だったらしい。後期古英語 breþren は brōþor(”brother”)に “-en⁴” 接尾辞がついた複数形…ではなく、brœ̅þre(複数形)の中部・南部方言である。もともと複数形だった語にさらに複数を意味する -en 接尾辞がついており、「二重複数(double plural)」と呼ばれるようだ。同じ経緯をたどったものには “children” がある。

brew

brew”(醸造する)はゲルマン祖語由来の本来語で、これ自体の語源はシンプルである。しかし派生語の項目を読むと、“brewery”(醸造所)の語源が不詳であると書かれている。初出は1658年と比較的新しい。一説ではオランダ語 brouwerij からの借入だとされているが、英語内で “-ery” 接尾辞によって派生した可能性もあるようだ。18世紀の辞書にも収録されていないらしいが、現代ではカタカナ語としても「ブルワリー」はよく聞く単語になっていると思う。後発ながらスピード出世した単語と言えそうだ。

brick

brick”(れんが)は語源不詳らしい。中英語 brike は中期オランダ語 bricke からの借入だが、これ以前の語源がわかっていない。しかし古フランス語・フランス語との間におもしろい現象があるようだ。

中期オランダ語 bricke は中英語だけでなく、古フランス語にも借入されたらしい。KDEEには、それが英語への借入の促進にもなったとも考えられると書かれている。「促進」とはどういうことを意味するのだろうか?また一方で、フランス語 brique の「れんが」の意は逆に英語からの借入らしい。よくわからない関係だ。

さらにKDEEでは “brick” と “break¹” が語源的関係をもつ可能性についても言及している。もし “brick” が古フランス語 brique に由来していた場合は共通の語源を持つことになるらしいが、不詳である。イメージ的にはつながっていてもおかしくない気はするが、他人の空似の可能性はそれなりにありそうだ。

bridal, bride

bridal”(婚礼の、花嫁の)の語尾 -al はよくある形容詞語尾ではなく、なんと “ale”(エール)に由来する。語源を遡ると、後期古英語 brȳdealu は brȳd(花嫁、新婦)と ealo(エール)から成る合成語である。当然だが、brȳd から発達したのが英語 “bride” である。

語源的には違っていても、やはり形容詞を作る -al 接尾辞だと誤解されたようで、他の形容詞からの連想により16世紀以降には “bridal bed” や “bridal ring” といった付加語的な用法が増えたらしい。誰が見てもそう見えると思うのでこれは仕方ない。

この民間語源説についてはkhelfのコンテンツで過去に取り上げられていることを堀田先生から教えていただいた。


一方 “bride”(花嫁、新婦)の語源を遡ると、古英語 brȳd はゲルマン祖語 *brūðiz から発達しており、そこから先は語源不詳である。KDEEによると、一説では “bread” や “brew” と同じく印欧語根 *bhreu-(茹でる、焼く)に遡ると考えられているらしい。料理をすることが花嫁の務めであったことに由来しているとすると、英語 ”lady” の語源が “loaf”(パン)に関連することと似た構造を持つことになる。おもしろい仮説だ。

brief¹, brief², merry

KDEEには “brief¹”(勅書、勅許状)と “brief²”(短時間の、手短な)が立項されている。このふたつは同綴異義語となっているが語源は同じである。そしてなんと “merry” (楽しい)とも同語源である。不思議な意味変化としても意外な同根語としても興味深い。

brief¹” の語源を遡ると、中英語 bref, breve はアングロフレンチ語 bref あるいは後期ラテン語 breve(要点)からの借入である。これらはラテン語 brevis からの派生で、印欧語根 *mreghu-(短い)に由来する。短く要点が書かれた書面ということから、君主が発する勅書の意味に転じたのだろう。ちなみにブリーフケース “briefcase” は “brief¹” から派生した造語だ。書類を入れるカバンということだろう。

一方 “brief²” の語源を遡ると、中英語 bref は古フランス語 br(i)ef からの借入で、これはラテン語 brevem, brevis から派生しており、結局 “brief¹” と同じである。印欧語根から考えればむしろ原義に近いのはこちらの形容詞のほうだろう。

語源に登場したラテン語 brevis は “abbreviate”(短くする)の項でも登場した。意味的にも同語源であるのはわかりやすい。しかし問題は、これらと “merry” が同語源であるということだ。“merry” は同じ印欧語根 *mreghu- からゲルマン祖語 *murȝjaz(短い)に派生し、古英語 mye(i)ġe に発達している。ゲルマン語派では m 音が残り、イタリック語派では b 音に変化したことになる。これは名前がついた現象なのだろうか?また、意味変化は古英語へ発達する段階のようで、KDEEには書かれていないが一説では「時間が短く感じるほど楽しい」ということから今の意味になったのではないかと推測されている。初見では絶対に気付けない語源的関係だ。


今回はここまで。br- シリーズはまだまだ先が長く、英語史ライヴ2024までにどこまで読めるか勝負どころだ。おそらく当日は午前のKDEE関連コンテンツの枠に顔を出すと思うので、なるべく読み進めておきたい。


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