見出し画像

英語語源辞典通読ノート C (case-casual)

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。Cから始まる単語、今回はp201からp203の途中まで。cas- から始まる語の最初から最後までで区切りがいいので短めですがまとめます。


case¹, case²

case¹”(場合、事例)と “case²”(容器)は同じ綴り・発音だが語源はまったく異なる。そしてそれぞれ意外な同根語を持っている。

case¹” の語源を遡ると、初例は1200年以前、中英語 cas は古フランス語からの借入である。これはラテン語 cāsum(起こったこと)からの発達だ。cāsum は cadere(落ちる)の過去分詞形であり、cadere は印欧語根 *kad-(落ちる)に由来する。同じ語根に由来する英単語には “accident” や “incident”、”occation” など、「出来事」に関連する語がいくつもある。実は “chance”(偶然の出来事)も同じく cadere に由来する同根語である。もともとはダイスを振ることを指しており、そこから転じて今の意味になったようだ。

一方、”case²” の語源を遡ると、初例は少し遅れて1325年以前、中英語 case は古ノルマン語 casse からの借入である。これは古フランス語 chasse に対応しており、ラテン語 capsam(収納箱)からの発達である。そして capsam は capere(捕まえる)からの派生である。なんと “case²” の由来は capere、以前にも唸らされた “caption”, “capture” などと同じ語源である。捕まえたものを入れるもの、ということで箱や容器の意味になったのだろう。

ところで、”case²” はラテン語から古フランス語に発達する過程で p の音が落ちたことで語源がわかりにくくなっているが、同じ語源の “caption” と “capture” には p が残っている。これはラテン語から古フランス語へ借入された語との違いだろうか?古フランス語が発達するどこかのタイミングで p が落ちる変化が起きていて、その後で借入されたから元の p が残ったとか?

ちなみに、”cash”(現金)も “case²” と同語源である。もともとはイタリア語で「現金が入った箱」を意味する cassa がフランス語経由で英語に借入された語である。”money case” だったはずが「箱」だけ独り歩きしたよくあるパターンだ。

cast

cast” という単語を見て、どの意味を思い浮かべるだろうか…。「投げる」「鋳造する」「投げ出す、捨てる」「計算する」「曲がる」「役を割り当てる」、これらは同綴異義語ではなく、ひとつの多義語である。何がどうしてこうなったのだろうか。

語源を遡ると、中英語 caste(n) は後期古英語 *castan からの発達で、古ノルド語 kasta(投げる) からの借入だとされる。そしてこれ以前の語源は不詳である。つまり、現在の多様な意味への分化は英語に取り入れられてから起こったものである。KDEEによると、はじめは西部方言で多く用いられていたが1300年ごろまでには他方言にも普及し、それに伴い意味の分化が始まったようだ。

castle

castle”(城)の語源を遡ると、古英語 castel は古ノルマン語 castel からの借入で、これは古フランス語 chastel に対応する。chastel はラテン語 castellum(城塞)からの発達で、これは castrum(要塞化された野営地)に指小辞がついている。castrum は印欧語根 *kes-(切る)に由来し、原義は「切り離された場所」ということのようだ。

ちなみに、古フランス語 chastel は現代のフランス語で “château”(シャトー、王族や貴族の住居)となる。つまり、”castle” と “château” は二重語である。

casual

今までまったく気づいてなかったが、”casual” は “case¹” と同語源である。言われてみれば確かにそれっぽい綴りだが、言われるまではわからなかった。英語での初出は1384年頃「臨時の、不定期の」という意味で、時代とともに意味が発達している。日本語の「カジュアル」に近い「無関心な、無頓着な」という意味で使われだしたのは1916年とかなり新しい。それまでは「偶然」や「不安定」といったニュアンスで使われる語だったようだ。

語源を遡ると、中英語 casuel は古フランス語 casuel または 後期ラテン語 cāsuālis(偶然の)からの借入である。これらはラテン語 cāsus から発達している。cāsus は単数主格形で、単数対格形の cāsum が “case¹” の語源である。


cas- ゾーンは2ページ半ほどであっさり終わった。次回から cat- ゾーンに入る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?