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英語語源辞典通読ノート C (cabbage-camera)

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。Cから始まる単語、今回はp182からp188まで。


cabbage

cabbage”(キャベツ)が英語で初出したのは1391年、中英語期である。語源を遡ると、中英語 caboche は古ノルマン語(Old Norman French) caboche の借入であり、古フランス語 caboce(頭)に対応する。ここから先の語源は不詳なようだが、KDEEによれば ca- 接頭辞(軽蔑の意)と boce(ふくらみ、こぶ)から成るとする説を有力としている。

KDEEには書かれていないがラテン語 caput(頭)に由来すると見る説もあるようだ。前者の説に基づくと、古フランス語 boce は英語 “boss³”(こぶ、突起) や “button”(鋲、ボタン)と同根ということになる。一方で後者の説に基づけば “capital” や “head” などと同根ということになる。どちらにしても意外性のある同根語だ。

cable

cable” のもともとの意味は海事用語の「錨綱」、そこから「太綱」、「電線」といった意味に転じている。語源を遡ると、中英語 cable は古ノルマン語 câble の借入で、古フランス語 chable に相当する。これは後期ラテン語 capulum(端綱)からの発達で、ラテン語 capere(つかむ、捕らえる)に由来する。ここから印欧語根 *kap-(握る)に遡り、英語 “captive” や “catch” と同語源である。言われてみれば「捕らえる」ことと「繋ぎ止める」ことは近いが、なかなか気づきにくい同根関係だ。

cake

cake”(ケーキ)は12世紀以前には使われていたようだ。語源は北ゲルマン語群(スカンジナビア諸語)に由来し、ゲルマン祖語 *kōkōn から発達したとされる。英語 ”cookie” とは同語源だが、”cook” とはまったく無関係らしい。紛らわしい話だ。

calculate, calculus

calculate”(計算する)は1570年が初出の語である。語源を遡ると、ラテン語 calculāre(考える)の過去分詞形 calculātus に由来している。この動詞はラテン語 calculus(小さな石)から派生している。古くは計算のために小石を使っていたことに由来するようだ。KDEEによると、14世紀から16世紀半ごろにかけては “calcule” という別の語が使われていたらしい。こちらは中英語 calcule(n) が古フランス語 calculer の借入であり、これはラテン語 calculāre からの借入である。すでに calculāre 由来の語があったのにもかかわらず16世紀頃に古フランス語経由の既存の語を捨ててあらためてラテン語から取り入れ直したようだ。
また、ラテン語 calculus から中英語期に借入され、現代英語にも残っている “calculus” は “calculate” と二重語である。“calculus” の原義は「小石」だったが、1600年代では「結石、腎石」のような医学用語になったり、「微分積分」のような数学用語になったり、意味が特殊化して残っているようだ。”calculus” からの流れを図示するとこんな感じだろうか。

L. calculus から英語への流れ

ちなみにラテン語 calculus からさらに語源を遡ると、ラテン語の calc-, calx(石、石灰岩)に由来しており、英語 “calcium”(カルシウム)や “chalk”(石灰、チョーク)と同根である。似ているようでなかなか気づきにくい同根関係だ。

calendar

calendar”(暦、カレンダー)は “claim”(主張する)と同語源である。語源を遡ると、中英語 calender はアングロフレンチ語からの借入で、古フランス語 calendier に相当する。これもラテン語 calendārium, kalendārium(台帳、帳簿)からの借入で、calendae(月の第一日)に由来する。KDEEによると、ローマの習慣では月の初めの日に勘定や利息を払うことになっていたことに由来するらしい。

さらに語源を遡ると、ラテン語 calendae は calāre(宣言する)から派生しており、印欧語根 *kelǝ-(叫ぶ)に由来する。この語根は英語 “claim” と共通している。こちらも、ローマでは、月の第一日を一般人に知らせるお触れを出していた習慣から意味変化していったようだ。
ちなみに、中英語までの語尾 -er から現在の語尾 -ar へ変化したのは15世紀ごろで、ラテン語からの類推によるものらしい。これもまた語源的綴字というやつだろう。

Cambridge

Cambridge”(ケンブリッジ)といえばイングランドの都市である。この街には River Cam が流れており、「”River Cam” に架かる橋」から “Cambridge” と名付けられた…と思わせて、実のところは逆である。現在の川の名前は “Cambridge” からの逆成だ。

語源を遡ると、中英語では Cantebruge、古英語では Grantebryċġ(Granta川に架かる橋)であった。KDEEによれば古英語からの綴りの変化はノルマン式発音の影響ということらしい。川にちなんだはずの都市の名前が独り歩きし、時を経て発音と綴りが変わった結果、元の川の名前は忘れられてしまったようだ。

camera

camera”が「写真機、カメラ」の意味で使われるようになったのは1840年以後らしい。英語での初例は1708年だが、このときは「部屋」という意味で、”chamber” と同じ意味だった。それどころか、語源的にも “chamber” と二重語である。

語源を遡ると、ラテン語 camera(丸天井、丸天井の部屋)からの借入で、これもギリシャ語 kamárā の借入である。印欧語根では *kamer-(曲げる、円蓋)に由来する。「写真機」の意味は中世ラテン語 camera obscūra(暗室)の略である。ピンホールカメラのイメージがあれば理解しやすいかもしれない。

二重語の “chamber”([特定の目的に使われる]部屋) のほうは、中英語 chaumbre が古フランス語 chambre の借入であり、これはラテン語 cameram から発達した。どちらにせよ、「丸い天井」からその天井がある「部屋」のほうを指すように意味が転じたうえで、それでも原義をより残しているのは “chamber” のほうだろう。


いよいよ C に突入した。読み始めてわかったが思ったよりも ca- から始まる語はけっこう多い。早くも2文字目ダービーは不穏な動きである。

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