一万円分、本を贈る
還暦を迎える自分へ、本をプレゼントしようと思い立った。誕生日の、三日ほど前のことである。本を一万円分、自分のために買うのだ。一万円に意味はない。しいて言うならお小遣いで出せる、家計を圧迫しないキリのいい金額だから。
もともと私は、本を買うことが少ない。もっぱら図書館で借りて読んでいる。作家と書店と出版業界に貢献していない。関係者の皆さま、ごめんなさい。雑誌と絵本と漫画はせっせと買ってるので、貢献していなくもないか。
人から「よく本を読むね」「読書家ですね」と言われると後ろめたい気になるのは、本を買っていないせいかな? 図書館で借りて読む人間を、はたして読書家と言えるのだろうか?と。
年に一度くらい、誕生日くらい、自分に本を買ってあげよう。作家と書店と出版業界のためにも。そしてその本たちを、次の誕生日まで一年かけて読むのだ。図書館で借りて読む本の合間合間に。
一冊目は決まっている。このアイデアを思いつく前から読もうと思っていたカズオ・イシグロの新作。それ以外は何にしようか、書店で1時間迷った。途中で店員さんに電卓を借りて『今いくらだろう?』とレジカウンターの隅っこで計算した。
そして買ったのがこの六冊。
『クララとお日さま』『さよならの儀式』『村上さんのところ』『アウシュヴィッツの図書係』『おとなの書きこみ白地図帳』『日本の絶景1120』
この六冊の中の一冊に、こんな一文があった。
『たくさん読んだから偉いというものではありません。読んだ本がどれくらい「血肉」になっているかというのが、むしろ大事なんです』
今から血肉を得ます。