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霧の向こうの美術館へ
熱海はいつも霧が深い。
海も山も近い上に暖かく湿っているためだろう。
熱海の梅は日本一早く咲くことで知られているのがその証拠だ
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そんな場所で、今回とても魅力的な展覧会があったので行ってみることにした。
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山の奥深くに位置するMOA美術館。道は狭いし車がひっくり返りそうな位に急斜面。対向車が来ないことを祈りながら進みました。ビクビクしながらとろとろ走るうち(なんでこんなにも立地の悪い所に建てたんだ)などと考えてしまう。
優れた美術品には、人々の魂を浄化し、心に安らぎを与え、幸福に誘(いざな)う力がある
創立者岡田茂吉の言葉だ。確かにこの霧をすすめば、何かしらの浄化は叶うのかもしれない。
狭くて見えなくて滑りそうな山道が怖くて、いっそ家に帰りたくなってる所だが、進んだ先に良い作品と出会えるのなら印象の反動は大きいだろう。気晴らしにかけていたAudibleが、もう運転の邪魔をしてるようにしか思えなかった。
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光琳 国宝「紅白梅図屏風」×重文「風神雷神図屏風」
現在開催されている展覧会は、MOAが所蔵する国宝「紅白梅図屏風」の展示。
さらには俵屋宗達の作品をトレースした、光琳が描いた「風神雷神図屏風」が並ぶというものだった。
風神雷神図屏風と言えば、琳派の創始者と一般に言われる俵屋宗達、100年近く経った後の尾形光琳、そのさらに100年後の坂井抱一。
この3人の「風神雷神図屏風」が良く知られている。
私としてはオリジナルの宗達作のものが1番迫力があり好きなので、本展は(宗達じゃないのか…)が第一印象だった。しかしその残念な印象は後で覆ることになる。
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MOAと言えば光琳が晩年自ら設計し住んでいた光琳屋敷が再現されている地でもある。
近代的な美術館と日本家屋が入り混じる空間は私のお気に入り。
庭には紅白梅図屏風に因んで、紅梅と白梅が植えられているそうだ。春先に来るととても美しく咲いている
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今回の展覧会に合わせて、風神をモチーフにした御膳と雷神をモチーフにした御膳が選べた。私は風神の刺身御膳を注文。ドライアイスを忍ばせた小鉢は風神の息吹を感じさせるものだった
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さていよいよ展覧会へ。
尾形光琳は江戸中期に活躍した人物。呉服商の息子として生まれ、若い頃は家業に関わっていました。展覧会の最初も着物からスタートし、蒔絵や小振りの掛軸と展開していきました。
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光琳はとてもグラフィカルな作品を展開する絵師だと認識していました。
しかし故に「風神雷神図屏風」は、宗達の迫力と比較すると目劣りしてるなあと感じていたんです。
迫力の宗達とグラフィカルな光琳。
しかしだからこそ光琳は「燕子花図屏風」のような平面的でリズム感のある作品が魅力的だと思っていたんです。
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本展では宗達をトレースした「風神雷神図屏風」と、風神雷神図屏風を写した「紅白梅図屏風」といった対比で展示されていました。
曰く、風神雷神図屏風で培った構図を、光琳が光琳なりにオリジナルに変換したのが「紅白梅図屏風」ということだったのです。
確かに屏風絵って通常六曲一双で、二曲一双のスタイルはこれ以外殆ど見かけません。
雷神の緑の天衣がうねる様を、白梅の極端に曲がる枝に変換し。また風神の風袋の豊かさは、紅梅の色付く華に変換されています。
さらに2つの間に大きな川を流し、時の流れに生きる人生を象徴している。
光琳の風神雷神図屏風はただ宗達の劣化版を作ったのではないかと考えていた自分が急に恥ずかしくなった。
光琳はその時代、光琳なりの答えを出そうと模索していたんだ。これ程賞賛され愛された人物が、過去を敬愛し研鑽を続けていた。その結果、紅白梅図屏風を生み出したのだ。
ぐっと、静かに込み上げてくるものがあった。
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霧の中の美術館は想像以上に魅力的だった。
こんな辺鄙な所、もう二度とくるものかと思いながら、気がつくと今回車を走らせていた。道中は考えなしに突っ走る自分を呪ったが、終わってみると清々しい。まだ霧は晴れないどころが霧雨に育っているけど、また来たいと思っちゃうんだろうなあ。
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