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プロスポーツ民主化同盟

 2024年プロスポーツ界に激震が走る判決が出ました。サッカーフランス元代表などにも選出されたラサナ・ディアラ選手が2014年ロシアのチームを監督との確執が原因で契約を解除されました。ディアラ選手も練習をボイコットするなどチームとの対立が激化。このまま干されるぐらいなら新天地に移籍する事が今後のキャリアのために重要になるはずでしたが、国際サッカー連盟FIFAの裁定によってディアラ選手は1000万ユーロの罰金とサッカー選手としての活動が禁止されました。ディアラ選手はすでにベルギーのチームと契約をしていましたが、国境を越えたチーム移籍の際FIFAによる規定により契約は破談。実際1年近く試合に出場する事ができませんでした。そもそもロシアのチームとトラブルになった原因は報酬の一部未払いなど金銭トラブルもありました。「選手の自由な移籍を阻害するFIFAの規定は違法ではないか」ディアラ選手はEU司法裁判所にFIFAを提訴します。
 出された判決はFIFAの規定は違法と言う文言が入っていました。「選手および移籍先チームに罰金支払い義務があると定めたFIFA規定は違法」。この判決に対して衝撃が走ったのはビッククラブを含めた全てのクラブ経営者でした。選手が契約途中でチームを移籍したら違約金=移籍金が発生する。長期契約を求める選手側にとっては当然1億ドル以上の移籍金が発生する。中小クラブはこの移籍金目当てで選手を育成し、金の卵をビッククラブに「納品」をする。こうした移籍金ビジネスで売り上げを上げていたクラブは大きな収入源がなくなる事も視野に入れないといけません。移籍金の一部を収益にしていた代理人など、閉業の危機に陥るしかも知れません。
 しかしここで一つの疑問も生まれます。そもそもこの移籍金を支払う事が本当に労働法に関して考えれば合法なのか?ほとんどの国で労働は商品ではなく、当然人身売買は禁止されています。こうした制度に近かったのは日本のプロ野球の2017年までのポスティングシステムでした。現在ではメジャーリーグに挑戦する選手の年棒に連動する事で移籍金を明確化し、一種の人身売買のような制度は一定の緩和を見せています。プロスポーツチームのファンになる時は理由が様々あって、当然期待の選手がチームの優勝の前に大枚で補強費が潤沢なチームに移籍されてしまう。これによってがっかりしてしまうファンは多いでしょう。私もその1人。ただそうしたファン心理が加熱して、制度の問題の不備をなぜか選手個人に当たってしまいメンタルケアが必要になるケースがある。プロスポーツのメッカとも言えるアメリカではこうした告白が大論争になりました。
 一つ言える事は、体は鍛えてプレイの質は上げる事をできても精神まではしかもプレイと直接関係ない事はいくら鍛えていたと思っても、なかなか思う通りにいかない事も多々あります。現在ではプロスポーツもグローバル化し、海外の試合を普通にテレビやネットで見える時代にそのビジネスは大きく向上しました。選手の年棒の高騰はそうしたスポーツのグローバル化は欠かせないです。ただ規模が大きれば大きくなるほどそのショービジネスはショーである所以に労働者としての人権は置き去りにされる事が多いです。人類にとってコロッセオで剣闘を観戦していた時代と変わらない部分はあるのかも知れません。だからこそ選手会労組は存在意義がかなり急激に高まっていると言えます。私はNBAにもNBPにもBリーグにもご贔屓チームを持ち、当然今からいう事はファン心理にとっては中々辛いものもありますが、あくまで労働組合の労働者としてプロスポーツ選手の労働者性を再発見する取り組みを行いたいです。

プロスポーツと労働組合

 2011年2月、日本のプロサッカー選手会が一般社団法人から労働組合になったきっかけとなる出来事がありました。焦点となったのは、日本代表選手として選出されたサッカー選手の報酬が低いと言う事です。ナショナルチームに選ばれる事はサッカー選手として大変名誉な事ですが、当然全力プレイを求められるためにケガのリスクも高まり場合によってはキャリアにも影響しかねない。選手会としてサッカー協会は選手に様々な協力を求めているのだから、報酬の増額を求めました。ワールドカップで獲得した賞金の半分は選手で分配する。日本代表として出場した試合ボーナスを最低100万円は保証する。今後国際試合においても大会賞金がなくても、それに準ずるボーナスを用意する。当時日本代表の勝利給はワールドカップ本戦で200万円、あとは30万円でした。親善試合はその相手によって最高で20万円。怠慢なプレイは例え親善試合であっても容赦なくスポーツ紙の餌食にされる。報酬増額の幅はともかく増額自体は急務でした。東日本大震災直前の出来事です。当時は評論家が、「選手は過大な要求をしすぎだ。国民の期待を背負っていると言う自覚を持て」と言う論調もありました。その国民の期待とやらに報酬やキャリアを犠牲にするものでも無いと思いますが、当時としてはこうした論調は別に珍しくもなかったです。
 さてサッカー協会としてはそれらを飲む義理はないです。プロサッカー選手会は社団法人であって労働組合では無いのだから、そうした賃金の要求はできないのです。当時一般社団法人のサッカー選手会の会長だった藤田俊哉選手は労働組合組織として選手会を改革する事を宣言。なんと9月には労組として東京地方労働委員会に認定されます。この卓越した手腕は当時の最古参とも言える選手会以外の労働組合OBを唸らさせるものでした。入念に準備をしてスピード感ある組織化に成功したのでしょう。藤田俊哉選手はJリーグでプレイしながら、海外移籍、その後再びJリーガーとなった当時としては異色の経歴の持ち主です。海外のサッカー選手会の交渉力を異国の地で学んだと推察されます。
 さて、あらゆるプロスポーツ選手会は各国にありますが、その中でも国際サッカー選手会略称FIFPROは、1965年に結成。当時から国境を跨っていたグローバルユニオンであり、その運動の中でも特筆すべきものはボスマン判決でしょう。当時ベルギー2部リーグでプレイしていたジャン・マルク・ボスマン選手はフランス2部リーグのチームからオファーを受け移籍をしようとしたところ、契約満了したはずのベルギーのクラブがその移籍を阻止しました。当時のヨーロッパサッカー連盟の規定では契約の満了においても保有権は前に所属していたクラブにあり、そのクラブが了解しなければ移籍ができないと言う規定があったからです。つまり移籍金を要求したと言う事です。ボスマンにはFIFPROの敏腕弁護士がサポートし、
1、クラブとの契約が完全に終了した選手の所有権を、クラブは主張できない(つまり契約が終了した時点で移籍が自由化される)事の確認
2、EU域内であれば、EU加盟国籍所有者の就労は制限されないとしたEUの労働規約を、プロサッカー選手にも適用するべきである
と言うほぼ満額に近い回答を得ることができます。残念ながらボスマン自身はこの判決だけで、サッカー選手としてのキャリアは何も残せないまま終わってしまいました。今は静かに暮らしているそうです。労働運動にはこうして託された思いがあると言う事を重々承知して前に進みたいと思います。
 こうしてFIFPROは労働組合として、プロスポーツ選手労働組合どころか全ての産別とも勝るとも劣らない強固な交渉力を持った労働組合として、その栄誉を世界中に轟かせました。選手会労働組合において選手の移籍の自由は、原点です。労働運動の視点から考えるとこれは全ての労働運動にも言えます。藤田俊哉会長は選手会の労働組合化に成功した年にサッカー選手としてのキャリアをほぼ終えますが、そのパスは必ず繋いでくれる人がいます。

世界最強の労働組合 MLB労働組合

 イチローや大谷翔平選手が活躍するメジャーリーグにおいて日本のマスコミでは「全米最強、世界最強の労働組合」と呼ばれる団体があります。メジャーリーグ選手会。彼らは、そのストライキも辞さない戦闘スタイルはそう形容している事に相応しい団体です。しかし、一つ疑問を持たないでしょうか?例えば日本のプロ野球はオーナーが基本的に大企業の社長が多いですが、MLBでは個人が所有する場合が多いです。大半が投資家グループです。その感覚はシビアです。MLB労働組合が世界最強であるが所以は「世界最強の経営者団体」であるMLBと闘争せざるを得ないからです。
 かつてメジャーリーグは労組結成以前はどれだけスター選手でも年棒10万ドルを超えてはならない。好きな野球で稼いでいるのだから、文句を言ってはならないと言う不文律がありました。さて曲がりなりにも10万ドルを「頂戴できる」メジャーリーガーならまだしもそのキャリアはほとんど貧乏暮らしであり、妻子も養わないといけないマイナーリーガーにとってはあまりに辛い現実でした。2軍選手の境遇を見かねて労組結成をした事例は韓国プロ野球選手会があります。私のTwitterで何度か発信しているので、もしお暇があるなら検索してくれると幸いです。
 1959年現在ニュースになっている全米鉄鋼労働組合が100日以上のストライキを敢行。鉄鋼産業は完全に稼働が停止し、資本は白旗を上げました。当時全米鉄鋼労組のエコノミストだったマービン・ミラーもストライキを指導し、労使交渉のプロ中のプロフェッショナルでした。交渉ごとにおいては弱点も多いメジャーリーガーはこのミラーに三顧の礼で迎え、ヨチヨチ歩きのMLB労組の委員長に就任します。さてその中でカート・フラッド事件と言われる騒動が起こります。きっかけはセントルイス・カージナルスのカート・フラッドのトレードから始まりました。フラッドはいわば安打製造機型の選手でカージナルスのレギュラーを獲得すると毎年打率を3割を超える文句なしのレギュラーでした。ただメジャーリーグはと言うよりアメリカ4大スポーツは大型トレードを頻繁に行うことで有名です。フラッドは新聞記者に叩き起こされ、自分がフィラデルフィア・フィリーズにトレードされることを知りました。黒人初のメジャーリーガーとして、その名も世界の野球ファンの中で名高いジャッキー・ロビンソンが存在しますが、ロビンソンがメジャー昇格を果たすと真っ先にロビンソン所属のドジャースの対戦を拒否した筋金入りの人種差別が他球団よりも色濃い球団がフィリーズでした。ロビンソン在籍時においてフィリーズ監督のベン・チャップマンの白人すら躊躇する一線を超えた人種差別のエピソードは事欠かないです。ちなみにチャップマンはナチス信奉者でした。彼も晩年は改心したと言うエピソードもありますが、フィリーズやフィラデルフィアには当時そうした人種差別を許容する風潮があり、黒人であるフラッドが移籍に悩んだと言うのは理解できるでしょう。フラッドはトレードを拒否します。
 当時ミラーはメジャーリーグには保留権と言う問題が選手の人権を蔑ろにしていると言う点に着目しました。このマービン・ミラーと言う人は労組どころか経営陣もできれば取り込みたいという逸材でしたが、選手会のオファーを受けた時真っ先に快諾しました。彼は熱狂的なドジャースファンで、西暦を言われると当時のスタメンを何も見ずにスラスラ語れると言うほど野球ファンでした。その問題のメジャーリーグの保留権と言うものは、ほぼ当時から100年前に取り決めされた規定であり、選手と球団の契約中はトレードや戦力外以外では球団のものであり選手は永久に球団の所有物である。と言うものでした。フラッドは弁護士に相談し、この規定は独占禁止法に違反していないか?と言うことでMLBを提訴しました。
 ミラーはフラッドに面談。この裁判は自身のキャリアを終わらせかねない。少なくとも1年間のキャリアは棒に振りかねないと言う事を話しました。フラッドはそれでもいいと即断。選手会とMLBとの長い法廷闘争のプレイボールです。この裁判ではジャッキー・ロビンソン、ハンク・グリーンバーグなど歴代の名選手も証人になり、MLBも保留権がなかった時代は戦力均衡なんかなかったんだと言う主張をしました。プロスポーツにおいて戦力均衡は永遠の課題ですね。この裁判で、提訴から2年を経てカート・フラッドはワシントン・セネターズに移籍しました。ブランクがあったフラッドはまともな成績を残せず引退しています。裁判も敗訴でした。裁判所の見解も過去の判例を踏襲しつつも放映権で機構側も稼いでいるはずと言う事を認めています。保留権も独占禁止法に違反しているかもしれないという何とも煮えきれない態度でした。ただこの法廷闘争は選手会の結束を強めました。カート・フラッドの名前はほとんど残らずともこれをきっかけに、後のフリーエージェント制度や年金制度、最低年棒制度、調停制度など多くの権利を勝ち取りました。その最中、フラッドに繋いでもらったマービン・ミラーは2020年に野球殿堂入りを果たしています。ミラーとフラッドがいなければ私達はプロスポーツを現代においても観戦できなかったしれないです。選手がいないと興行は成立しないです。そのバントは必ず受け継ぐ。

デローザン、ケビン・ラヴの告白

 シカゴ・ブルズのスター選手だったデマー・デローザンが実は鬱病に悩まされていた。貴方がご存知でしょうか?バスケットにご興味がない人でもデローザンは、一流選手の1人だったと言う事は周知の事実です。勝負強さは折り紙つき。デローザンのプレイで何百人のファンは喜び、何万人の他チームのファンは憂鬱なまま次の日の仕事に向かうことはある種当たり前でした。彼は現在でもキャリアを積んでいますが、シカゴ・ブルズ時代に出版した「ABOVE THE NOISE」は全てのバスケットファンを驚愕させると共にファンとしてのあり方を再び考えさせる事になった彼の魂の著作です。「どんな事でも対処できるように寡黙でいる。」「結局のところ僕たちは同じ人間なんだ。スターだろうが、通りがかった人でも僕は同じように接するよ。」デローザンのプレイスタイルを少しでも知っている人がいれば、こうした告白は驚くばかりでしょう。彼は多くのNBAプレイヤーとまた同じようにギャング団からバスケット選手になり、その荒くても力強く試合を決定させるある種「男らしい」プレイが売りでした。しかしデローザンにとってこのプレイスタイルはどこか苦痛でした。ギャングだろうがNBAのスターになろうが、自分を追い込んでしまう。うまく言っていることは簡単ではない。デローザンが出版後に発表した言葉です。アメリカで黒人、バスケットのスーパースター。彼が弱音を吐くなんて考えられない。だから弱音を吐くことは「許されない」こうしたプレッシャーのなかで何人のスター候補が潰されてしまったのか?素人には分からないです。ギャングでもスポーツで異彩を放つ選手には決して手を出してはならない。デローザンは突出した才能を持ち、全米9位でドラフト指名。所属したトロント・ラプターズではルーキーから主力級の活躍。当然チームのエースになりました。デローザンは貧困街出身でそこからヒップホップスターになった歌手が「ここからデローザンになる」と言う歌詞を書いているぐらい地元のスターです。
 ただこの事実はデローザンを苦しめていました。あの圧倒的な活躍をしていたデローザンですら、自分はダメな人間だと言う苦しみに悩んでいました。ベットで寝ようとしてもほとんど眠れず朝を迎え、動けず動けなくてもプレイでは強い強靭なメンタルを持つ選手として振る舞わないといけない。ただ彼が鬱病から唯一自分なりに表現ができるのは、コートしかなかった。その衝撃の告白は2018年になされたものでした。いつしか私達は一流選手は鬱病とは無縁な人だと思い込んでいましたが、そんなわけはなくデローザンも常に戦っており、コート上では自分を曝け出せるたった一つの場所でした。この告白にNBAきってのクレバーなバスケットスタイルでアメリカ代表を勝ち取ったケビン・ラヴも同様の告白をしています。クリープランド・キャバリアーズでレブロン・ジェームズと共にリングを獲得したラヴもデローザンと同じ鬱病に長く苦しめられている1人でした。
 NBA機構も労組もこの事態を重く見てこの時期からメンタルヘルスについて長い労使交渉がありました。デローザン、ラヴの告白の後には労使交渉の元各チームに心理学者や精神科医などメンタルヘルスケアの専門コーチを設置されるようになります。この労使交渉はケガとメンタルヘルスを同様の扱いにすべきであると言う主張を選手会は行っており、その交渉の結果徐々にNBAでは理解が広まっています。さて前述したようにすでに30代の後半であるデローザン、ラヴは現在でも現役でプレイしています。そうした事を公にできず引退したプレイヤーも多かったでしょう。彼らが懸命に選手を守ってくれたスクリーンを私は覚えています。

大学生も労働者?

 2014年アメリカである画期的な判断が出ます。その判断を下したのは全米労働関係委員会。その一文は全米大学スポーツを大きく揺るがせるものでした。
「奨学金を得ている学生選手は、連邦法で労働者と認められる」
しばしプロよりも熱気がある大学アメリカンフットボールにて、大学生が労働者と認められた瞬間でした。事の発端はノースウエスタン大学のアメフト部。学生側は選手の労組を結成する事を望み、ヘッドコーチはそれに反対していました。両者の意見を聞いた全米労働関係委員会は前述した判断を決定しました。
 日本で言えば高校野球の特待生に労働者として判断を下したようなものと言う意見もありました。アメリカ大学スポーツの市場規模はイギリスサッカープレミアリーグを上回る2兆円です。一流のプロリーグを凌駕する市場規模を持ちながら「アマチュア規定」がある大学スポーツは当然年棒と言う概念はなく、怪我をしても治療費の一部は選手の負担です。大学スポーツの花形選手は肖像権もなく、大学がグッズを作り当然大学側は巨万の富を手に入れています。選手が受け取る時給は奨学金を含めて700円程度。ちなみに大学体育局の幹部の収入は日本円で数千万円。ヘッドコーチは当然億を超えます。
 そうした不公平な学生選手を守っていたのは、全米大学選手協会。創設したラモギ・ヒューマは、元アメフト選手で大学生時代貧困に喘いだ同じチームの仲間が食料を受け取り、「アマチュア規定」に引っかかり、出場停止になった出来事がこうした団体の設立の契機になりました。ヒューマの粘り強い呼びかけで労組結成の機運が高まり、大学体育選手協会と言う団体が立ち上がります。ノースウエスタン大学のアメフト部はすぐに労組結成を全米労働関係委員会に提出しました。学生側の代表はQBの四年生ケイン・コルター選手です。「学業よりスポーツが優先されている」と言う証言をして、大学側の「学業が最優先事項であり、コーチの仕事は学生にスポーツを通じて人生を学ぶことだ」と反論しています。当時多くの関係者は大学生選手の労働組合が認められるわけがないと言うものでした。裁判所ではない全米労働関係委員会でも過去の判例を踏襲するだろうと思われていました。
 そしてこの小見出しの序文に戻ります。学生選手は労働者である。ノースウエスタン大学のアメフト部は30億円を稼ぐ巨大なビジネスであった事。部員の8割近くが奨学金を受け取る学生アスリートであった事。当然この奨学金はアメフトが続けられなくなったら取り消しもあるものです。そして週の練習時間が50時間以上あった事。8時間労働だったとしても週6日働いても50時間には到達しません。大学側のロジックである奨学金はあくまで学生生活のもの。学生は守衛と同じ臨時従業員であると言う主張はことごとく退けられました。何故アメフト部を辞めれば、その奨学金が取り消されるのか?拘束時間や四年という「長期契約」を複数年奨学金を与えていると考えると守衛と同じなのは理屈が通らないと言う裁定を下しています。
 さてこうした裁定は大学が印籠のように守ってきた「アマチュア規定」を粉砕するものでした。プロスポーツにおいて経費の半分は人件費、選手の年棒です。大学スポーツにおいてその人件費は少額に抑えられ、巨額の利益を得る事ができたビジネスモデルが根底から覆るものでした。
 ただこの判断は後日ひっくり返す事になりました。大学の異議申し立てに対し民間セクターに全米労働関係委員会は関与できないと言う判断を下し、私立大学の労組結成は認めないと言う立場に変わりました。とは言えこれは学生選手の労働者性を否定したものではないです。この判断が下されて10年後。学生スポーツの市場規模はさらに拡大していますが、そうした弊害も目立つようになりました。今後全米学生スポーツはどう言う変化を見せるのか?セットプレイは始まっています。

国際産別 世界選手会

 何度でもこのnoteで紹介していますが、国際産別組織主にサービス業を中心に加盟しているUNI グローバル ユニオンは様々な国のプロスポーツ選手会を傘下に置く「世界選手会」も加盟しています。日本ではNPB労組やJリーグ労組などが加盟。会長はメジャーリーグでも活躍したトニー・クラーク元一塁手です。ただクラーク自身は選手出身ですが、労使交渉には若干の弱点があり一時期はメジャーリーグ労組にクーデター騒ぎもあったので、今後はいかに他の産別が選手会労組を支援できるかが勝負です。事実選手会の動向はマスコミに取り上げられやすく、考えてもいないバッシングに会うこともしばしばです。持続可能なプロスポーツをどう維持するか?選手会もファンもまた問われていく時代になりました。個人競技ではなくチームプレイが求められる球技においていかに労働組合として結束を保つのか?問われています。
 世界選手会において人権擁護、プレイヤー擁護、スポーツの影響力について今後も協議して目標にすべきあると訴えています。スポーツ選手は選手寿命が尽きれば、契約は難しくなり将来受け取る年金保障も貧弱ならば、その老後まで生活が豊かではないという事です。個人的に日本のプレイヤーは悪しき「タニマチ意識」の文化が残っており、地元の経営者がその存在を誇示するためにプレイヤーにお酌をさせ、球団もクラブも見てみぬふりをする事で本来皆がまだ感染する事ができた選手が引退を早めてしまう結果になりかねない事もあります。スポーツ選手は自営業ともいう論調もありますが、労働者性を持った労働者として社会保障制度を世界選手会も他産別も目指していきたいです。
 一つ当時は連合も協力した2004年のプロ野球合併問題。かねがね選手会を支持するファンが多く、NPBの交渉もしない態度といわゆる「たかが選手が」という多いなる批判もありました。ただプロ野球選手会に対してもこういう発言もありました。「野球選手は高学年棒は行き過ぎ。プロ野球チームがサッカーみたいに全国に広がらない原因は選手の人件費だって問題。プロスポーツが成立するのもファンが汗水垂らして観戦してくれるおかげなのだ。自分達の権利ばかりを主張するならプロ野球は見放される。」
 その高額年棒は一部を除いて、基本的に年金などの保障がないプロ野球界の老後資金の前払いみたいなものですが、スター選手の華々しい活躍ばかりが目についてしまい肝心の労働環境については、意外にもほとんど進められていません。もちろんファンとしては自分が応援するチームの勝利が1番ですが、長く選手が活躍してもらう環境を整えるのも労働組合の役割です。こうした状況に対して私たちも世界選手会と連帯します。プロスポーツはファンのものであるならば、その職業は公共の共有物でありその仕事に従事している人の労働者の権利が守られないというのはおかしな議論だと思います。
 プロスポーツ選手はほぼタレントに近く、悪い意味でも普段の行いが報道されるので様々な議論を呼びますが選手会は「選手の人権を守る」のが主軸であり、当然労働組合は労働者の権利を守る団体なのでファンの熱意とはまた違う考えのもと運営されています。企業の不祥事に労働組合も反省せねばならない事も多いですが、労働組合も利用者に還元すべきという考えは労働運動から少しピントがズレた意見になります。
 アスリートの労働者性は何十年も議論されてきました。革命未だ成らず。「利用者」が多い産業ほど利害関係は多くなります。労働組合という組織は賃上げできる。プロ野球選手会が好例。という事を私も同志も常に訴えてきたいです。


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