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【おすすめの一冊】ノンデザイナーがデザインの基本を学びたいならこの一冊、他の参考書はとりあえず必要なし

デザインの基本を学びたい人にオススメしたい一冊をご紹介します。専門書をたくさん読むのは大変なので、とりあえずこれだけしっかりと読めば、基礎の基礎だけは学ぶことができるという良書を一冊、ここで取り上げてみたいと思います。ページ数はそれほど多くなく、要点だけを知るのにちょうどいい文量となってるため、すぐに読破できることでしょう。

その書籍はこちらです。

ノンデザイナーズ・デザインブック [第4版]
Robin Williams (著), 米谷 テツヤ (監修, 翻訳), 小原 司 (監修, 翻訳), 吉川 典秀 (翻訳)

かっこよくデザインしたい。デザイナーではない人でも、そう思うときがあるのではないでしょうか。仕事に関係する資料をパソコンで作成しているとき、出来上がった資料を見て、どうにもかっこ悪い、なぜかあまり美しくない、今ひとつわかりにくい、と感じていませんか?デザイン的によくないことは分かるけど、じゃあ、どうすればプロっぽくなるのか、それがわからない。そんな人にオススメの一冊です。

一言でデザインと言っても、デザインする対象は様々です。プロダクト(製品)のデザインはもちろん、衣服や内装のデザイン、ポスターや雑誌表紙のデザイン、イラストやロゴのデザイン、映像やウェブサイトのデザインもあります。そういった外観や見た目のデザイン以外にも、工業製品や建築物を設計したり、その図面を引いたりすることもデザインの一種です。新しいサービスを生み出すといった問題解決のための仕組みを作り上げることもまた、デザインです。そして様々なデザインに対して、それぞれ専門家がいます。プロダクトデザイナー、グラフィックデザイナー、ファッションデザイナー、建築デザイナーなどと呼ばれる職種をみなさんも聞いたことがあると思います。したがって、デザインをするのはそれぞれの専門家たち、つまりデザイナーたちであり、それらのデザインは彼らにお任せすればよいことです。

では、デザイナーではない人、つまりノンデザイナーの人たちにとっては、デザインはまったく縁遠いものなのかというと、けっしてそんなことはありません。社会人であっても学生であっても、日々の業務や学業において、望むと望まざるとに関わらず、何らかのデザインをしなれけばならない場面に出くわすことがあります。「日常の業務の中でデザインなんかしていないけど・・・」と思う人もいるかもしれませんが、それは意識していないだけで、じつは意外と、日常においてデザインの素養が求められているシチュエーションは少なくありません。

この書籍でデザインと称しているのは、いわゆる見た目のデザインのことですが、何も、手の込んだグラフィックを作ったり、見栄えがよくなるように派手な装飾を施したりすることだけがデザインではありません。伝えたい情報を正確に、効果的に伝えるため、書類の見た目を工夫すること、それもデザインです。例えば、決められた用紙サイズにテキストや写真が見やすく収まるように最適なレイアウトを考える、といったことは誰もが普段からやっているはずです。それもデザインです。

例えば、プレゼンスライドというのがあります。みなさんもPowerPointでプレゼンスライドを作成し、プレゼンを行うことがあると思います。社内会議で、顧客との打ち合わせで、シンポジウムや講演会で、チーム内の定例ミーティングで、様々な場でノートパソコンを使ってプレゼンをすることは、今どき珍しくもありません。そのプレゼン資料を作るとき、フォントをどうするか、レイアウトをどうするか、配色をどうするか、ページ分割をどうするか、誰もが考えると思います。その行為はすなわち、プレゼンスライドをデザインしているということになります。

報告書の作成にもデザインは求められます。決められた報告書の雛形がすでにあって、それにテキストを入力するだけなら見た目のデザインについて考える余地はありませんが、その雛形自体を考えて作らなければならない立場の人もいるはずです。そのとき、表題をどのように配置するか、必要事項のレイアウトをどうするか、文字サイズをどうするか、テキストは左揃えでいいのか、いろいろと考えてデザインしなければなりません。わかりやすく効果的な報告書にするためには、そういったデザインが適当なままでいいはずがありません。

他にも、例えば、会議で配布するアジェンダや出席者リストは、非常に単純な構成の書類ですが、本来、その目的に合わせて適切にデザインされるべき書類です。にも関わらず、何も考えずに適当に作ってしまっているケースも多いと思います。もちろん適当に準備したものでも支障がない場合も多いのですが、それでも、それらをより美しくかっこよくデザインすることができれば、受け取る人によい印象を与えられるのは間違いないので、それに越したことはないはずです。

もっとしっかりとデザインしなければならない場面も、少なからずあります。例えば、営業活動で配る新製品のチラシや、イベントで掲示する会社紹介のポスターなどがそうです。プロのデザイナーにデザインを外注することもあると思いますが、予算がない、時間がないといった理由で、限られた時間内で自ら作らざるを得ないことも、よくあるのではないでしょうか。社会人に限らず、学生でも、講義のレポートや、サークルの勧誘チラシなどを作ることがあると思います。そんなときはやはり、それなりのデザインの素養が求められます。

そういったシチュエーションでは、そこまで本格的でハイレベルなデザインが求められているわけではありませんが、できるだけかっこよく、自分でササッとデザインできれば、どんなにいいでしょうか。そんなときに素人でもすぐに生かせるデザインの基本原則を、この「ノンデザイナーズ・デザインブック」はとてもわかりやすく、論理的に説明してくれています。

「ノンデザイナーズ・デザインブック」では、4つのデザインの基本原則の説明が柱になっています。まず、関係性の深いもの同士は近くに配置すべしという「近接」の原則、次に、とにかく空間的な配置を揃えるべしという「整列」の原則、さらに、デザイン的な特徴を全体を通じて繰り返すべしという「反復」の原則、そして最後に、サイズ、書体、配色などにしっかり差異を設けるべしという「コントラスト」の原則です。たったこれだけです。この4つの原則は、これさえ覚えておけばいいという、まさに最低限のデザインの原則です。特別なことは何も言っておらず、むしろ、これまでも何となく感じていたことを、適切な表現でまとめてくれた、といった印象を私自身は受けました。そのため、とても腑に落ちる内容になっています。

これらのデザインの4つの基本原則の効果を説明するために、この書籍では、名刺やレストランのメニュー表、履歴書など、身近にある媒体が例として使われています。デザインの基本原則に従った場合と、従わなかった場合を比較することで、これらの原則がいかに大事かということがわかりやすく示されています。とくに「なるほど」と膝を打ったのが、名刺を使った実例です。名刺は極めて情報量が少なく、その情報を限られた2次元スペースを使って正確に、効果的に相手に伝えなければならない媒体です。しかも名刺は基本的にモノクロ印刷で十分で、色さえ使う必要がない単純な媒体です。この書籍を読むと、名刺デザインは、デザインの基本を学ぶのに最適な演習問題だということがよくわかります。

古い話になりますが、私がこの「ノンデザイナーズ・デザインブック」に出会ったのは学生時代です。学会で研究発表するときに、どうしても自分の名刺を作る必要があって、どうやってそれをデザインしようかと悩んでいるとき、この本を見つけました。そして、この本から学んだデザインの原則を生かして、さっそく自分の名刺をデザインしたことをよく覚えています。2024年6月現在の「ノンデザイナーズ・デザインブック」は第4版ですが、当時はまだ第2版でした。その第2版はまだ自宅の本棚に収まっています。ちなみに、この記事の見出し画像に使っている写真は、当時購入した第2版の実物の写真です。日に焼けて今ではやや黄ばんで色あせていますが、そこに書かれている内容は、今見てもまったく色あせていません。版を重ねるごとに内容が少しずつ変化していることもあり、また、電子書籍版(Kindle版)も欲しかったので、最近、最新の第4版のKindle版をあらためて購入したぐらいです。最近のデジタル媒体に対しても十分に通用する内容になっています。

この書籍は、タイトルにあるとおりノンデザイナー、つまりデザイナーではない人を対象としています。これがこの書籍の一番のポイントです。世の中のほとんどの人はデザイナーではありません。デザイナーになりたいわけでもないと思います。デザインを本格的に学ぶ時間もなく、そこまで深くデザインを追求したいわけではありません。どちらかと言うと、仕事上、必要に迫られてデザインをしなければならない人が大半だと思います。そういったノンデザイナーが知っておくべき最低限の要点だけが書かれているわけですが、とにかく従うべきとされる原則の数が少ないのが素晴らしい点です。たった4つだけです。これはつまり、この本を読むだけで、誰でも比較的簡単にそれを実践できるということです。学生時代の私が、この本を読んで名刺デザインにすぐ活用できたように、です。

実際に実践してみると、この書籍で紹介されているたった4つの原則を守るだけで、本当にデザインが大きく改善されることにみなさんもきっと驚くはずです。とくに誰でも実践しやすい対象が名刺のデザインです。ですが、名刺は、会社など組織から支給される場合が多いので、会社員のみなさんは自分でデザインすることはめったにないと思います。そんな人は、プレゼンスライドで実践してみてください。最近は、日常的に、仕事でPowerPointを使ってプレゼン資料を作っている人も多いと思います。プレゼンスライドを自分で作るときに、この本で書かれている内容はとても役に立ちます。それほど実用性の高い基本テクニックが紹介されているので、参考書と言うより、どちらかというと実用書として使えます。

最後に、この書籍の難点についても少しだけ触れておきましょう。この「ノンデザイナーズ・デザインブック」はもともと英語で出版されていて、日本語版は英語版から翻訳されたものです。そのため、直感的に理解しにくい日本語の表現が時折見受けられます。例えば、先に述べた「近接」の原則ですが、確かに意味は理解できますし、本文を読むと言いたいことはよくわかります。しかし日本語で「近接」と言われると、いまひとつピンと来ません。どうしても翻訳っぽいなあと感じてしまいます。原書では”Proximity”となっていますので、むしろ原書の英語での表現の方がしっくりと来るかもしれません。このあたりの日本語としての違和感によって、やや読みづらくなっていることは否めません。

それに、翻訳本なので当然ですが、実例として紹介されている名刺やレストランのメニュー表などはすべて原書に基づいているため、英語です。日本語版には、日本語に対応した実例集も付録として追加されていますが、十分とは言えない量です。日本語表記のデザインを考えるときには、少し違ったアプローチが本来、必要なのかもしれません。とくにフォントやタイポグラフィーは言語によって特性が大きく違ってきてしまうため、その違いを無視することはできません。無い物ねだりにはなりますが、日本語に即した形でデザインの基本原則を説明するような改訂版が出版されることを期待してしまいます。

あと、この「ノンデザイナーズ・デザインブック」は、色に関しては言及していません。色に関するデザインは、それだけで非常に奥が深い話なので、配色や色の使い方について学びたいなら、他の参考書を探す必要があります。ただ、この「ノンデザイナーズ・デザインブック」を読むと、基本的なデザインにおいては、じつは色を使うまでもなく、モノクロでも十分に、適切なデザイン表現ができてしまうことがよくわかります。色はあくまで補助的に使うものであって、デザインでは、「色使い」よりも、この書籍に書かれている「近接」「反復」「整列」「コントラスト」の原則の方がはるかに重要であることを、この書籍を読むと思い知らされます。

とにかく、デザインの基本原則が知りたければ、この1冊で十分です。しかも、書かれている内容は、すぐに実践できることばかりです。デザイナーではない、ノンデザイナーにとって最良の一冊としてオススメできる1冊なので、ぜひ手に取ってあなたのデザインの参考にしてみてください。


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