「お掃除屋さんは見た!家の裏側はミステリー」第12話〜L様宅〜
本日のお客様はL様。
L様はお掃除のお店を立ち上げた時からのお付き合いです。
事業所のオープン時、ご近所さんへチラシを持ってご挨拶に伺うと……
「おめぇ、掃除は年取ってからする仕事なんだよぉっ!」
なんて江戸っ子の口調で言いながら、20代でお掃除の仕事をする私に興味を持ったようで……
家事代行のご依頼をいただくようになりました。
L様はおひとりさまですが、おしゃべりなインコとお住まいでした。
インコの名前は、鳥には珍しい「タカシ」
インコのタカシはL様と同じ江戸っ子口調で、
「おめぇ!てやんでぃ!」
なんて話すのが可愛くて、お掃除しながら微笑ましく聞いていました。
L様は口調だけでなく、江戸っ子気質のせっかちで豪快なところもあり……
キッチンクリーニングで、私がコンロの五徳のコゲを地道にゴシゴシ落としていると、
「こんなん取り替えりゃいいんだよぉ!」
と、メーカーから新しい五徳を取り寄せたり……
(お掃除屋さんとしての仕事が〜)
葉巻のタバコを嗜む方でしたが、私が喘息持ちだと知ると、すぐに空気清浄機を買ってドンッとテーブルの上に置いたり……
(そもそも健康のためにも禁煙した方が〜)
そして、お掃除に伺っているのに……
「あんたは掃除なんかしなくていいんだよぉ!」
そうおっしゃって、話し相手だけして帰る日もありました。
(家事代行メニューに話し相手を加えようかな?)
L様宅を訪問するのは、年金が支給される月に合わせて2ヶ月に1回。
だいたい月の半ばにご依頼いただいていましたが……
ある日、焦った声でL様よりお電話をいただきました。
「タカシがいないんだよぉ!」
ちょうど事務所にいたので他のスタッフと一緒にL様宅へ伺ってみると、換気のために少し開けていた窓からインコのタカシが飛んでいったとのこと。
「クリッピング※してたのによぉ!」
(※風切羽をカットすること)
「新しい羽根が生えてきたかもしれませんね。私たちも一緒に探します!」
インコ用のエサを少しずつもらって、手分けして近所を探すことにしました。
「タカシ〜どこにいるの?」
なんて声をかけながら歩いていたので、顔見知りのご近所さんは子どもがいなくなったと思ったらしく、
「一緒に探します。タカシちゃんの特徴は?」
そう聞かれて、
「ありがとうございます。全体的に黄色でホッペが赤い『インコ』です」
そう答えると、
「インコ〜〜〜!?」
最初は笑っていたご近所さんでしたが、
「L様の大切なインコなんです。江戸っ子のしゃべり方をするので、すぐにわかると思います。もし見かけたらご一報お願いします」
私たちが真剣にお話すると、
「わかった!子どもの虫取り網があるから持っていきなさい」
ご近所さんから虫取り網をお借りして、事務所に戻り作戦会議。
(羽を切ってあるから、遠くまで飛べないはず)
そう考え、ポスティング用の地図を見ながら、L様宅から半径50m範囲を大人4人で手分けして、しらみつぶしに捜索することに。
それから約2時間後……
L様の3軒隣のお宅の庭で「てやんでぃ」と鳴いているタカシを発見。
インコのエサを使って呼び寄せて、なんとか段ボールに捕獲することができました。
「タカシが無事で良かった〜」
スタッフもみんな安堵して、L様にお届けすると……
L様宅の鳥かごには、黄色いインコがいます。
(え?どういうこと?捕まえたインコはタカシじゃないの!?)
「おぉタカシいたのかぁ!もう帰ってこねぇと思って新しいの飼ってきたんだよぉ!この子『タカコ』ベッピンだろぉ!」
「ベッピン!おめぇベッピン!」
タカコの言葉は、すでにL様色に染まっています。
「L様…せっかちなのはわかっていましたが……切り替えが早すぎですっ!」
スタッフも私も苦笑いでツッコミ。
「わりかったなぁ。ちょっと待ってろよぉ!」
L様はタカシを探してくれたお礼にと、近所の酒屋さんにビール1ケースを注文して、事務所に届けてくださいました。
「もう、タカシもタカコも逃さないようにしてくださいね!」
こうしてL様は、2羽のインコと賑やかに暮らすようになりました。
「タカコ、てやんでぃ!」
「なんでぇ、タカシ!」
その後、他のお客様宅でもいろんなインコに会いましたが、江戸弁を話すインコはL様宅だけ。
今でもインコを見ると、こだまのようにタカシ&タカコの声が聞こえてくる気がします。
「てやんでぃ!」
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