「お掃除屋さんは見た!家の裏側はミステリー」第11話〜K様宅〜
本日のお客様はK様。
K様は賃貸マンションの4階に住んでいらっしゃいました。
そのマンションには敷地内に駐車場がないそうで、近隣のコインパーキングに車を止めることになりました。
駐車場のない現場の場合、有料駐車場の料金はお客様にご負担いただくことにしています。
それはK様にも事前にお伝えして、ご了承いただいたのですが……
現場から100mほど離れたコインパーキングに車を止め、台車にお掃除道具を乗せてゴロゴロ押しながら着いたマンションには……
あるはずのものがありません。
入り口でK様に電話をかけ確認すると、
「このマンション、エレベーターがないんです。言ってませんでしたっけ?」
古いマンションの中には、4階以上からエレベーターを設置している建物があります。
そのようなエレベーターのない建物の場合、多くの引越し業者と同じように、私たちお掃除屋さんも階数に応じて追加料金をいただいています。
バケツやお掃除ボックス1〜2個の量なら、基本料金で運ぶことも可能ですが、今回のご依頼は床ワックス。
しかも、何年もお手入れしていない床だとお聞きしたので、ポリッシャーも持参で伺っていました。
さらに、その日のお掃除スタッフは、私と50代パートさんの2人だけ。
追加料金をいただいたとしても、女性2人で4階までお掃除道具を運べそうにありません。
「本日は重い機材もあり、階段で運び入れるのが難しいです。別日に男性スタッフを連れて伺おうかと考えています。その場合、追加料金も必要となりますが、いかがなさいますか?」
K様は10秒ほど考えて……
「せっかく来ていただいてキャンセルは申し訳ない。床掃除のために会社を休んだので、ぜひ今日でお願いしたいです!」
そうおっしゃるK様とご相談した結果……
K様に荷物の運搬を手伝っていただくことで、今回は追加料金ナシでお受けすることになりました。
しかし、階段を降りて1階に現れたK様は……
肩に傘がかけられそうなくらい、とてもスリムな男性でした。
そしてポリッシャーの重さは約28kg。
K様の細腕では、ポリッシャーをうまく持ち上げられません。
「やっぱり私が持ちます」
そう言って、機材の扱いに慣れている私が4階までポリッシャーを運ぶことにしました。
保育士時代や子育て中、20〜30kgの子ども達を抱っこするがあったので、なんとかなると思いましたが……
階段の負荷は想像以上で、3階手前の階段でダウン。
途中からパートさんと一緒にポリッシャーを持ち上げて、なんとかK様のお部屋まで運ぶことができました。
機材を運んだはいいものの、重たいポリッシャーを持って手首に受けたダメージは大きく、いつものようにテキパキ動けそうにありません。
パートさんに指示をして床洗浄の準備を進めてもらっている間に、お掃除仲間にSOS。
ちょうどK様宅から車で10分の距離にいた仲間がいて、お掃除も荷物運びも手伝っていだけることになりました。
「○先輩、お忙しい中ありがとうございます!」
ヘルプに来ていただいた仲間は、お掃除業界○十年の超ベテラン。
私の状態を察して、手首用サポーターと保冷剤も持ってきてくださいました。
(さすが場数をこなしている大先輩!)
「女の子がこんな重たいもの持つんじゃないぞ」
そう言ってポリッシャーで床を洗う先輩の背中が、一瞬、加山雄三に見えました。
先輩とパートさんにお掃除をお任せして、手首を冷やす私を見て、
「本当にすみません」
K様は始終、申し訳なさそうにしていましたが、事前に確認不足だった私たちに落ち度はあります。
「こちらの確認不足なので、どうぞお気になさらないでください」
大先輩のおかげでキレイになった床を見て、K様は荷物運搬の追加料金を2倍、上乗せしてお支払いくださいました。
K様にご挨拶をしてお掃除道具をまとめ、先輩とパートさんの3人で4階からよっこらよっこら荷物を下ろしていきます。
階段を2階まで降りたところで、マンション住民の方が下から登ってきました。
お邪魔になってはいけないと、荷物を階段の踊り場に置き、先に通っていただきました。
その住民の方から、すれ違いざまに衝撃的な一言が!
「エレベーターを使えばいいのに」
K様は知らなかったそうですが、マンション入り口の防火扉の向こうに、貨物用エレベーターが設置されていたのです。
「私たちの労力はなんだったの〜〜〜!」
それからと言うもの、マンションにお住まいの方には、駐車場とエレベーターの有無を必ず確認するようになったのでした。
エレベーターのないマンションはコワイッ。
↓お掃除ミステリーの続きはマガジンへ↓