「お掃除屋さんは見た!家の裏側はミステリー」第23話〜W様宅〜
本日のお客様はW様。
W様は家具にもこだわった素敵な書斎をお持ちのお客様でした。
(書棚に英語やフランス語の本も多いけれど、お仕事は何をされているんだろう……?)
そう思いながら2週間に1度、クリーニングに通っていたある日。
W様に「君はハーフなの?」と聞かれました。
本土に住んでいた時は、タイなどアジア圏のハーフに間違えられることが多かった私。
「沖縄出身です」
そうお答えすると、
「なるほど。それでは……」
在沖米軍基地に関することをいろいろ聞かれました。
「W様、沖縄の事情に詳しいのですね」
そうお返事したら……
「ん〜実は……」
パソコンに向かってカチャカチャしてネット検索し始めたW様。
その画面には、Wikipediaにも掲載されている超有名大学の教授としてW様が掲載されていました。
そんなエリートのW様ですが、とても気さくな方で。
子どもがいると聞くと、お菓子のお土産をいただいたり。
学生の講義で使いたいジョークが伝わるかどうか、私に確認したり。
お掃除以外のご相談を受けることもしばしば。
「沖縄は仏壇ってどうしてるの?」
「基本的に仏壇は長男が継承していきます。家は賃貸でもお墓は自前で持つ方も多いですよ」
なんて、お話をしたら……
「僕は一人っ子でね。母が亡くなって仏壇を引き取ることになったんだけど、手入れができなくて」
そう言って案内されたW様のベッドルームの出窓には、コンパクトな仏壇が置かれていました。
「沖縄と風習や拝み方は違うと思いますが、お水やお酒、故人が好きだったものをお供えするといいですよ」
「大変申し訳ないんだけど、別料金を支払うので、お掃除に来る時に仏壇の手入れもしてくれるかな?」
お仏壇を見ると、ホコリをかぶっています。
「本当はW様が行った方がいいと思いますが、難しいのでしたら……」
「ありがとう。助かるよ」
こうして、定期クリーニングにお仏壇のお手入れも加わったのでした。
実は、私の母方は屋敷の拝みなどを行う家系で、私も断水続きの時に雨乞いの拝みに参加したことがあり、沖縄的な拝みの仕方は一通り教わっていたのです。
W様のお母様のお仏壇も、ホコリを払い、お水やお花をお供えして、心を込めてお手入れさせていただきました。
それから半年ほどが経ち、セミが騒がしくなってきた初夏。
見知らぬおばあさまが、何度も夢に出てくるようになったのです。
「腕の…知らせて……」
そう言いながら、左腕の黒いホクロを指さしています。
(なんのお知らせだろう?)
そう思いつつ、起きたら夢のことを忘れて仕事をしていました。
そして週末になり、W様のお宅を定期訪問した際。
ドアを開けてくださったW様の左腕に黒いものが見えました。
(ん?今までは長袖で気にならなかったけれど……)
「W様、その左腕のホクロは前からありましたか?」
「おや?こんなところにホクロなんてなかったと思うけど」
「ちょっと夢で見て気になっていたことがあって……」
私はW様に夢で見たおばあさまの話をしました。
すると、W様は古いアルバムを持ってきて私に見せてくれました。
「そのおばあさんって、この中にいるかい?」
「えっと……あ、この方です!」
私が指さしたのは、W様のお母様でした。
「母が……それは虫の知らせかもしれない。週明けに病院へ行ってみよう」
W様が病院の検査を受けた結果。
ホクロだと思っていたのが、悪性の皮膚ガンだと判明したそうです。
幸い、左腕の黒い部分だけ切除して薬で抑えれば大丈夫とのことで、W様は2週間ほどで退院されました。
「痛みもないし、あのまま気づかずに過ごしていたら、全身に転移していたかもしれないって言われたよ。知らせてくれてありがとう」
W様にはお礼を言われましたが、夢の中のお話を信じて行動に移したW様の判断のおかげだと思います。
そのことがあってから、お仏壇のお手入れは、W様も一緒に行うようになりました。
お母様が好きだったという和菓子をお供えしたり、お花を取り替えたり、仏壇に向かってその日の出来事を報告したりしているそうです。
とても不思議ですが、息子さんの異変を夢でお知らせしてくださった、W様のお母様の深い愛情を感じました。
「仏壇に手を合わせるのはお盆と命日だけ」という方も多いようです。
故人を思い出した時に、その場で手を合わせて祈るだけでも通じると思います。
「いつも見守ってくださってありがとうございます」
祖先に感謝の気持ちを持って過ごしたいものだなぁと、しみじみ感じた出来事でした。
あれからW様のお母様は夢に現れることはなくなりましたが、別の方がお知らせにいらっしゃることがしばしばあります。
そのお話はまた別の機会に……
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