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「お掃除屋さんは見た!家の裏側はミステリー」第10話〜J様宅〜

本日のお客様はJ様。

J様のお掃除は、特殊でした。
特殊と言っても事故物件等の特殊清掃ではなく、奥様が【化学物質過敏症】でいらっしゃったのです。

「洗剤を使わないでエアコン掃除してもらえますか?」

お問い合わせの第一声がそれでした。

(ん?イタズラ案件かな?)

お店のホームページから、時々冷やかしの問い合わせが来ることがあったので、今回もそうなのかと思いました。

でも事情を伺ってみると、洗剤を使うと奥様が体調を崩してしまうとのこと。

「アレルギー反応ですか?」

「化学物質過敏症と言います。重度のアレルギーと思っていただければ」

私自身、ぜんそく持ちだったり、子どもがアトピー性皮膚炎だったりで、少しはアレルギーに対して知識がありました。

お困りの様子のJ様のご希望になんとか応えたいと思い、ご要望や注意点をいろいろお聞きした上で引き受けることにしました。

お電話を切った後、化学物質過敏症(かがくぶっしつかびんしょう)を検索すると、さまざまな情報が出てきます。

  • 日常的に使う洗剤や身の回りのものに化学物質は含まれている

  • 人によって反応の出る物質は違う

  • 頭痛や倦怠感など、現れる症状も人によって違う


重度の化学物質過敏症になり、接着剤や塗料等さまざまな建材が使われている家に住めなくなり、空気のキレイな山小屋で暮らしているという方もいらっしゃいました。

これまで重曹や大豆の洗剤など、安全と言われているものでお掃除したことはありましたが、今回はそれらも一切使えません。

オーガニックショップのオーナーや、エアコンメーカーにも相談し、エアコンをスチーム洗浄してはどうかという結論になりました。

幸いヨーロッパ製の大型スチーム洗浄機を持っていたので、自宅のエアコンで試してみることに。

洗剤を使わないエアコンクリーニング
①高圧洗浄機を使用してお湯洗い
②高温スチームでカビなどを死滅させ
③エアコンの暖房機能で内部乾燥

J様宅のエアコンは、この手順で行うことにしました。


エアコンクリーニング以外では、J様宅に伺う際の服装にも、かなり気を配りました。

基本的に、お掃除屋さんのユニフォームはつなぎが多く。
家事代行の際は、ポロシャツ&エプロンなどでお伺いしていました。

でもその日は、オーガニックコットンのTシャツとチノパン。
靴下やエプロンもプリント等がない天然素材のものを選び、シャンプーやお化粧などの使用も控えて伺いました。

持参するお掃除道具にも気を配り……
他の現場で使った洗剤が付着しているといけないので、新品の雑巾やブラシ類を一度お湯につけ、天日で乾燥させたものを用意。

洗えない機材などは一通りお湯拭きして、できるだけ匂いや化学物質を持ち込まないようにしました。

パートさんは「ここまでするんですか?」と驚いていたけれど、私たちが気がつかないものに反応して症状が出ると大変です。

初めての化学物質過敏症の方のお掃除現場。
念には念を入れて準備しました。

そして当日。
いつになくドキドキしながら伺うと、J様がにこやかに出迎えてくださいました。
奥様は食べられるものも限られているそうで、ほっそりとしていらっしゃいます。

「排気ガスや柔軟剤の臭いなどがするので窓を開けられず、24時間空調管理で……
エアコンのカビが気になっていたので、洗剤を使わず洗浄していただけると聞いて心待ちにしていました」

「私たちも初めてのケースなので、いろいろ調べて準備しました。気になるところがあればお知らせください」

J様の奥様の体力も考慮して時間制限もある中、緊張感のあるエアコンクリーニングがスタート!
念のため、お掃除する間、奥様は別室でお待ちいただきました。

まずは軽く表面のホコリを拭き取り、エアコンカバーを取り外します。
エアコン内部には、空気を冷やしたり温めたりするアルミフィン(熱交換器)や、風を送るシロッコファンなどカビが生えやすい部分があります。

そしてエアコンを動かすための電装部分があり、そこは濡らさないよう養生をしてクリーニングします。

その電装部分の養生をする際に、ハッと気がつきました。
養生テープはガムテープに比べて臭いは少ないですが、化学物質です。

「これを使用しても大丈夫でしょうか?」
すぐさまJ様に確認しました。

「必要最小限の使用なら大丈夫です。マスキングテープが使えるところは、それでお願いします」

できるだけビニールだけでカバーし、テープの使用は最小限で養生していきました。

エアコン本体の養生が終わったら、お湯をセットした高圧洗浄機で、エアコン内部を洗浄していきます。

1回目のお湯洗浄。
エアコン内部のカビやホコリで、真っ黒になった汚水が出てきます。

「妻がカビ臭いと言っていましたが、こんなに汚れていたのですね!」
J様がバケツにたまった黒い汚水を見て驚いています。

「使い続けたエアコンは、見た目はキレイですが内部は真っ黒のことが多いです。見えない部分まで洗い流すと、黒い汚水が透明になりますよ」

そして2回目のお湯洗浄。
40リットルほどのお湯で洗浄した後は、真っ黒だった汚水が透き通っていました。

仕上げにスチーム洗浄機の登場です。
業務用スチームは大型ドームのような外観で、J様が「UFOのようだ」と興味津々で眺めています。

「家庭用の小さなスチームも販売されています。なかなか洗えないカーペットもふんわりしますし、1つあるとキッチンや窓、車などもキレイにできるので便利ですよ」

そうお伝えすると、パソコンに向かってカチャカチャ検索し始めたJ様。

(スチーム洗浄機をお探しかな?)

あとでオススメしようと思っていた家庭用スチーム洗浄機を、J様は自力で探されていらっしゃいました。

「口コミサイトで見ましたが、こういうもので大丈夫でしょうか?」

「アタッチメントもいろいろついていて、メーカー保証もある……
なにより小型で使いやすいのでいいと思います!」

J様が家庭用スチームを注文する間に、私はエアコンをスチーム洗浄。

電装部分にかからないよう気をつけながら、アルミフィンの面に沿ってゆっくり丁寧にスチームをかけていきました。

通常のエアコンクリーニングは、2人で1時間ほどで終了しますが、本日はいろいろ気をつけながら3時間ほどかかってしまいました。

奥様の体調が心配でしたが、奥のお部屋から出てきて……

「空気が澄んで森の中に来たみたい!」

とても喜んでいただけて、私たちもホッと安心しました。

普段、なにげなく使っている洗剤を使用できない方がいらっしゃる。
化学物質過敏症のお客様のご依頼で、とても貴重な経験をさせていただきました。

今は家にも職場にもお店にも……
身の回りは化学物質であふれています。

私たちもいつ化学物質過敏症を発症するかわかりません。
(できるだけ安全なもの、自然に即したものを選んでいきたいなぁ)
そう思いつつ、J様宅を後にしました。

それ以来、J様宅に伺うことはありませんでしたが、きっとご自分でスチーム洗浄されていることでしょう。
奥様とJ様が、元気で暮らせていることを願っています。


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