【FF14】死より冥き闇に【創作】
………痛い…………苦しい…………。
嫌だ、もう十分だ……。やめたほうがいい……このままじゃ壊れてしまう……。
ねえ聞こえてる? どうして……どうしてこっちを見てくれないの……?
気づいて……。
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ウルダハで開かれた戦勝祝賀会によって、ニグラスと私の立場は一変した。アルフィノが率いていたクリスタルブレイブがウルダハの共和派・砂蠍衆によって囲い込まれ、全てが敵となったのだ。「暁」の賢人たちの足止めによって、ニグラスと私は逃げ延びることができた。
私はニグラスをかばって深手を負い数日気を失っていたが、ニグラスの看病によって何とか戻ってくることができた。まだ本調子とは言えないが、自分で食事をとることが出来る程度には回復している。
「ブランカ。飯だ」
「ありがとう」
ニグラスが食事を持ってきてくれる。温かいスープと、柔らかそうなパンだ。木のスプーンでスープを掬って一口吸い込むと、身体の中からふわりと暖まる。
「大分動けるようになってきたみたいだな」
ニグラスが安心したようにこちらに微笑みかけてくれている。目を覚ましてからというものの、ニグラスはやけに優しい。いや、優しいのはいつものことなのだが、特別優しいという感じがする。
「そうだな。そろそろ体を動かし始めた方がいいかもしれない」
自分の手のひらを握り、開く。体力の低下やなまりが気になる。
「明日、少し動いてみるよ」
そう言うと、ニグラスは頷いてくれた。
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翌日、キャンプ・ドラゴンヘッドは天気に恵まれ、外に出るにはちょうど良かった。クルザスの気温は低く身体が縮むようだが、これから体を動かすにはちょうどいい。
—―あの時。
私は、どうすれば深手を負うことなくニグラスを護れたのだろうか。このまま格闘の道を究めても、所詮は「敵を倒すため」の力。「誰かを護るため」の力ではないのだ。自分の命を投げることになったとしても、ニグラスを護れるならそれでいいと思っていた。でも――。
「俺にはブランカが必要なんだ」
ニグラスがそう声をかけてくれたとき、私は深い意識の底で腕を引かれたようだった。私のことを、私の”存在”を必要としてくれている。これからは、ニグラスのために死ぬのではなく、ニグラスのために生きる道でありたいと思う。
「おはよう!今日もイイ朝だな!」
はつらつとした声で後ろから話しかけられる。振り返ると、オルシュファンがこちらに向かって歩いていた。
「ああ、おはよう」
「もう歩けるのだな。もしや、早速鍛錬か? その美しい肉体から銀の雪原へ滴る汗……ブランクを埋めるが如く鍛錬に励むお前も……実にイイぞ!」
オルシュファンは変な人だが、イイ人だと思う。ニグラスはいつも苦笑いをしているが、私のことを褒めてくれていると感じるので悪い気はしない。
「鍛錬といってもな。今のままの私で問題ないのか、考えていたところなんだ」
オルシュファンはそばまで歩み寄り、腕を組んだ。
「今のまま、とは?」
私は、オルシュファンの持つ盾をちらりと見ながら続けた。
「今の私の力では、ニグラスを護りきることができなかった。このまま強くなったとしても、また同じことを繰り返してしまいそうで、怖いんだ」
なぜだろう、オルシュファンには素直になれる気がしている。本当はこんな話はニグラスにしかしないのだが……といってもこの話をニグラスに直接するわけにもいかないので、丁度いいのかもしれない。
特に、オルシュファンは「誰かを護るため」の力を持っている。
「なるほど。ブランカスは、大切なものを護りたいんだな」
オルシュファンは、茶化さずに聞いてくれた。
「であれば、イシュガルドに行った際に探してみるといいだろう――『暗黒騎士』を」
「暗黒騎士……」
オルシュファンは組んでいた腕をほどいて、真っ直ぐにこちらを見て続けた。
「暗黒騎士—―それは盾を持たず、身の丈ほどの大剣を振るう騎士と聞いている。彼らは決して盾を掲げない。騎士の盾には、権力の象徴たる紋章が描かれるからだという」
私は、まだ真意を探り損ねている。
「イシュガルドにおいて、どこにも属さず、自身の正義に従い行動することは異端とされていることが多い。国に従い、正教に従い、家に従う。だが、暗黒騎士はそうではないらしい。彼らは自身の正義に従い、聖職者をも手にかける。自身の護るものの為に、タブーすら犯す。それが、暗黒騎士だという」
オルシュファンは私の肩に手を置く。
「まるで、お前のようではないか?」
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肌に刺激を感じるほどの寒さの中、ニグラスと私は皇都イシュガルドの門をくぐった。閉鎖的な国柄だとは聞いていたが、周りの者からの視線が尋常ではない。少なくとも歓迎はされていない。
オルシュファンの家の者に拠点として住まわせてもらえることとなり、一通りの挨拶を済ませる。ニグラスは早速机と椅子を借り、これまでの激動を書き留める作業をするそうだ。
私は、先日オルシュファンと話したことを思い返していた。
「であれば、イシュガルドに行った際に探してみるといいだろう――『暗黒騎士』を」
噂を辿るくらいはしてみるか。
ニグラスに「出かけてくる」と声をかけると心配されてしまったが、イシュガルドの門をくぐった以上クリスタルブレイブや銅刃団の追手はここまで迫ってこないだろうと説得した。渋々ながらも納得してもらえたので、上着を羽織って外へ出る。使用人の者たちに丁寧に見送られ、扉から出る。
「とは言っても……」
あてもなく街中を歩き回る。大きな教会らしき建物に興味を引かれ、とりあえずそちらへ向かってみることにした。
「本当だ、私は見たんだ!」
教会の前で建物の高さに圧倒されていると、興奮した貴族の声が聞こえてきた。いまはイシュガルドで得られる情報はなんでもほしい。少し近づいてみることする。
「あれがきっと、噂の『暗黒騎士』というやつなんだ…!」
どうやら目当ての情報のようだ。
「おい」
私は興奮気味の貴族に声をかける。貴族は見知らぬ人に急に話しかけられて困惑しているようだった。
「その『暗黒騎士』とやらについて聞かせてくれないか?」
貴族は、動揺こそしたものの、自身の話を聞いてくれることに喜びを隠せない様子だった。これは良い情報が聞けそうだ。
なんでも、イシュガルドでは身の潔白を証明するために「決闘裁判」なるものがあるとのこと。嫌疑をかけられた人物が戦神ハルオーネの御前で自身の力を証明することで、無実を勝ち取ることができるとか。
正教にたてついたことで罪に問われた暗黒騎士らしき人物は、その決闘裁判で命を落としたらしい。本来は決闘裁判で命を落とすことなどなく、自分の潔白が証明できなかった場合は降参したり、気を失ったりして続行不可になることが多い。しかし、その暗黒騎士は一切の罪を認めず最期まで膝を折らずに戦った。
「その暗黒騎士の身体からは、血ではなく真っ黒な"暗黒"が流れ出てきたんだ……やはり彼らはヒトではないのか。異端者とも言える恐ろしい存在なのかもしれない……」
オルシュファンから聞いていた「自身の正義の為に戦う」というのは嘘ではないようだ。
「お前さん、もし興味があるなら雲霧街に行ってみるといい。決闘裁判は先ほど終わったばかりで、その死体は雲霧街へ捨てられるだろう」
雲霧街。イシュガルドの貧民街だ。国に逆らったとはいえ、埋葬すらしてもらえないとは……イシュガルドにとっての"正教"の力がどれほど強大か実感する。
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雲霧街は酷くさびれており、より一層寒さを感じる。そんな場所で、不自然なまでに見た目がこぎれいな騎士とすれ違う。もしかしたら彼らが神殿騎士で、例の暗黒騎士の死体を運んできた連中かもしれない。関係者だと思われてあらぬ疑いをかけられるのもごめんなので、一旦は素知らぬふりをしてやり過ごす。
連中の姿が一切見えなくなってから、死体を探し始める。
死体は、雲霧街へ降りる階段の途中に乱雑に捨てられていた。黒い服に身を包み、顔も隠れている。生気は感じられない。使っていたであろう身の丈ほどのある大剣もすぐそばに放置されている。
死体を見つけたものの、得られる情報は少ないか。死人に口なしとはよく言ったものだ。
「ん……?」
死体のそばに光るものを見つけた。ソウルクリスタルのようだ。暗黒騎士のものだろうか。死人には必要のないものだろう、せめてこれを暗黒騎士の情報を集めるあてにしようと手を伸ばす。
すると、視界が極端に歪む感覚に襲われる。エーテルの濃い空間にいるときに起こるエーテル酔いのような症状だ。思わず地面に手をつく。立っていられない。頭の奥がずきずきと痛む。
声が、聞こえる。
………痛い…………苦しい…………。
嫌だ、もう十分だ……。やめたほうがいい……このままじゃ壊れてしまう……。
ねえ聞こえてる? どうして……どうしてこっちを見てくれないの……?
気づいて、ブランカス・フェローシャス……。
人の気配を感じ、ハッと顔を上げる。そこには先ほどまで倒れこんでいた死体が立ち上がり、私の顔を覗き込んでいた。
「僕のこと、わかるんだね……」
そう話しかけられ、驚く。間違いなく死んでいたはずでは?
「何者だ?」
額を抑えながらゆっくりと立ち上がる。黒ずくめの男は考え込み、たどたどしく答えた。
「僕は……えっと……ああ、『フレイ』という名前みたいですね。……すみません、自分でもちょっと混乱していて」
どうにも掴みどころのない返答だ。
まるでいまとってつけたような態度が気になり、もう少し探りをいれようとしたそのとき、雲霧街の奥から女の悲鳴が聞こえてきた。何事かと様子を見に行こうと踵を返した瞬間、大剣で遮る形でフレイに止められた。
「……待ってください。ソウルクリスタルに込められていた僕の力に触発されて、君の中にも、同じ力が芽生え始めているようです」
「……何?」
言っている意味がわからない。
「いま君が戦いに身を預ければ、芽生え始めている"暗黒"の力によって暴走してしまうかもしれない。その力の使い方を、まずは知るべきだ」
そういってフレイは、自身のソウルクリスタルを私に差し出してきた。黒く輝くそれからは、強い闇の力を感じる。
「つまり、私に暗黒騎士になれ、と?」
そう聞くと、フレイはゆっくりと頷いた。
なるほど、願ってもないかもしれない。ここで力の使い方を知ることができれば、今度こそニグラスを護る力を得られる。
「わかった。お前を受け入れよう」
フレイの差し出してきたソウルクリスタルを掴み、懐に押し込む。フレイは満足げに、持っていた大剣も私に差し出す。
「使い方は、追って教えます。君なら、きっとすぐに使いこなせるようになりますよ」
私はそれを掴み、縦に一度振ってみる。かなりの重さはあるが、扱いきれないことはないだろう。
「行こう」
大剣を背中に背負い、悲鳴が聞こえた雲霧街の奥へ向かう。フレイもそれに着いてくる。
得る力の全てはニグラスのためだ。彼を護れるのであれば、どのような技術でも身に着けてみせる。それが今の私の望みだ。
—―ほんとうに?
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