以上でお揃いでしょうか【ショートショート】
「東京に出て行った奴らのことを例えるならアイツらは、
鼻をかんでティッシュに受け止められた鼻水みたいなもんだ。
俺たちは鼻の穴に残り続ける。」
なんでだよ、と霧崎は俺に軽くケリを入れた。
深夜23時。
田舎に2人取り残された側である俺と霧崎は、いつもの扉を開いた。
昔よく4人でバカ話をしに来ていたファミレスだ。
俺は、なかなかやってこない店員の案内を待たず、
入り口近くにあるドリンクバーから、
セルフサービスの水を汲んだ。
ようやくやってきた店員から案内され、
俺と霧崎は案内された窓際のボックス席についた。
霧崎は水を汲んでいない。
こいつはいつもドリンクバーを頼んで、ジュースを飲む。
霧崎は、最近流行りのゲームの話をしている。
俺のあまり興味のない話でも、話しだすと止まらない。
俺は聞き流しながら、水を飲んだ。
店員を呼び、適当に注文する。
霧崎は案の定、ドリンクバーを頼んだ。
永遠と続くと思われた霧崎のゲームの話を一時中断するため、
俺はトイレに行くと言って席を立った。
大学に居た頃は、
健二がうまいこと霧崎の話を逸らせてくれたり、
遠藤が話を熱心に聴く役割を担ってくれていた。
仕事のために東京に出た2人の顔を思い浮かべながら、
俺は用を足した。
ふん、
東京に出て行ったアイツらは、
この小便器に流されていく尿みたいなもんだ。
俺たちは残尿として、
膀胱の中に残り続ける。
席に戻ると、霧崎はスマホを弄りながらメロンソーダを飲んでいた。
そこに店員が、
俺たちが頼んだサラダとフライドポテトを持ってきた。
「以上でお揃いでしょうか?」
…昔は4人揃っていた。
俺はまたもや、東京に行った2人に思いを馳せていた。
霧崎は、店員の方を見て「大丈夫です」と微笑む。
「最近ちょっと元気ないっしょ」
霧崎はスマホを手にしたまま、
顔だけこちらに向けてそう言った。
「まぁ、いや、別に」
流石に分かり易い、と言った霧崎はスマホを置き、
少しの沈黙の後、
俺にとって衝撃的な話を始めた。
前から俺のことが気になっていたこと、
東京で健二と遠藤が結婚し、
自分の中でも何かが変わったこと。
今までずっと友達としてバカなことをやってきたが故に、
もう女として見てもらえなくなっているのではないかという懸念。
自分の興味がある話をすると止まらなくなり相手の反応が見えなくなってしまう所を、
直そうとしているということ。
俺はかつてない胸の高鳴りを誤魔化すため、
何度も口に水を運びたいと思ったが、
いつの間にかグラスの中の水は無くなっていた。
いつになく真面目な語り口の霧崎の瞳は、次第に潤んできていた。
それでも、俺のことだけを見て話している。
俺はその場を離れる訳にはいかなかった。
離れてしまったものばかり憂いていても仕方がない。
意外と近くに、大切なものはあるのかもしれない。
もう日付も変ってしまったころ、俺たちは店を出た。
「まあまずは、お友達からお願いします」
「なんでだよっ!!!」
霧崎からのケリは強くなっていた。
おわりに
ここまでお読みいただきありがとうございました!
noteで小説には、実質初挑戦しました!
(過去にも一応書いているけど、
それはセリフがメインの会話劇的なものでした)
蛇足かもしれないし需要があるかは置いておいて、
以降の有料スペースには
ちょっとしたあとがき(制作秘話、裏設定、参考書籍)も載せています!
という訳で、もしも私のnote活動を応援してくれる方がいたら、
200円の支援をお願い致します。
頂いた支援金は、
より良い記事が書けるように全額活動資金にあてます!
何卒よろしくお願いします。
改めて、ここまで付き合いいただきありがとうございました!
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