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龍を祀る⑵|虎の怪談
ある夏の晴れた日。
小学3年生の僕は小学1年生の従弟妹達と一緒に下校していた。
気温は高く、夏らしいカラッとした暑さだった。
天気予報ではかんかん照り。
木陰や建物の影に入りながら汗ばんだTシャツをパタパタと仰ぎつつ歩いていた。
「暑いー!」
耐え切れなくなった従弟が叫ぶ。
それに釣られて従妹も同じように叫んだ。
「溶けちゃうー。雨でも降らないかなぁ」
そう言う従妹に僕は
「雲ないよー。無理無理、降らないよー」
と生返事をしていた。
その時、ふと高熱にうなされた時を思い出した。
龍ならなんとかしてくれるかもしれない。
突拍子も無い思いつき。
あの時なんでそんな事を思ったのか、僕にもわからなかった。
ただ、そう思ったのだ。
ぼーっと空を眺める僕に、従弟妹達は不思議そうに首を傾げた。
「僕な、雨を降らせる事ができるよ」
口から出た嘘。
なんでそんな事を言ったのか。
それを聞いた従弟妹達は
「ほんと!?やってやって!」
と、目をキラキラさせながら僕に聞く。
後に引けなくなった僕は、両手を心臓の前に持ってきて意識を集中させた。
フォオオオオオオ
風が巻き起こる。
涼しい風だった。
Tシャツの隙間から風が入り込み、裾をはためかせる。
「(あ、いける)」
そう思った。
両腕を真上に突き上げ、願いを込めて叫ぶ。
「雨よ!!!!!降れ!!!!!」
風が空へと舞い上がり、あたりに静けさが増した。
蝉の音も、近くの大通りを走る車の音も聞こえない。
シン…とした静けさが辺りを包む。
視界が揺らいだ。
その瞬間、ぽつりぽつりと雨粒が顔に当たってきた。
サーーーーーーという音と共に、雲一つない空から雨が落ちてきた。
それと共に音が戻る。
ジジッと蝉が小さく鳴く音。
車の排気音。人の気配。
ありえない空間を肌で感じた事に対して、幼い僕たちは背筋をゾクっとさせた。
雲一つない雨に怯えた僕は、両手を下げ、
「雨よ!!!!!!!止め!!!!!!」
と急いで叫んだ。
ピタリと雨が止み、少し雨に打たれた道路が雨の匂いをうっすら漂わせていた。
僕たち3人は興奮とちょっぴり怖かった気持ちを口に出しながら、家路を走った。
龍を祀る|虎之助
BGM:冥迷妖踊
https://youtu.be/m4gfJKKIdVI?si=HsbQsfkU3rm3miUH
TOP画像:yosei
https://www.ac-illust.com/main/profile.php?id=2Ba81VWu&area=1