コロナ禍労務管理での出向命令のリスク
コロナ禍回避のためにはいくつかの手段を用い、会社として雇用維持のためにどのような努力をしたのかが問われます。整理解雇をするにしても4要件(解雇の必要性、解雇回避の努力、人員選定の合理性、手続きの妥当性)を履行できているのかが問われます。
その中の一手段として、「出向」があり、昨今はグループ企業間を超えた企業間でも行われています。しかし、法的にも注意しなければならない論点がありますので、検証していきましょう。
労働者の個別同意
法的には、出向は就業規則に記載があることが前提ですが、現在の会社とも雇用関係が終了する転籍と異なります。よって、必ずしも労働者の同意は不要ですが、実務上は同意を取得しておくべきです。これは「辞めさせるために出向させた」などの主張もあり得るために、信義則上も取得しておくべきでしょう。
また、出向の揉めるタイミングは多くのケースでスタート地点であることが多いでしょう。
次は、期間です。コロナ禍回避のため、または、会社として雇用維持のための出向にも関わらず、3年間とするとさすがに長いと判断されかねません。だからと言って1年でも長いという議論もあり得ます。そのような場合は、同じ1年であっても、更新を3か月に1回設定するなどの配慮は必要と言えます。
労働者供給事業
これは、会社から労働者に対して他の「〇〇企業で働きなさい」と明示し、実際に働く会社と労働者の間で雇用契約や指揮命令関係が存在する形態です。
これは、労働組合が厚生労働大臣の許可(前提は不可)を受けなければ行うことは許されません。そして、この規定に違反した場合は労働者供給事業を行った者も供給された労働者を自らの指揮命令の下に労働させた者も処罰の対象となります。
よって、出向に際して、業として行っていないこと、マージンが発生していないことなどは重要な論点です。
出向命令を発するに際して
会社の経営が厳しくなった際に必ず解雇回避の努力として出向を検討しなければならないとも言えません。例えばグループ会社がある企業であればそれはコロナ禍でなくとも検討の範囲内には入っているでしょう。しかし、中小企業の場合、他社に出向を打診することはかなりハードルが高いと言えます。そもそもいきなり中小企業から出向を打診される時点でレピュテーションリスクを招く恐れもあります。
よって、出向以外の他の選択肢を用いることが妥当である企業は、報道に踊らされることなく、粛々と自社が取り得る選択肢を取るべきです。
また、職種転換が伴う出向は労働者に十分な説明を行うことは必須です。更に、職種限定採用である場合、職種転換での出向命令はハードルが高くなり、命令することは極めて困難(本人の同意がある場合を除く)である点も留意しておくべきです。
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