すぐ離婚していい、１度結婚してくれ

彼女が還暦を迎え働き出した。会社の玄関で会ったとき「私も三十路になりました」と笑顔を見せた。自宅から通勤しており、両親には「もう少し家に置かせてください」と頭を下げお願いしたという。

10年後、40歳になった彼女が母親を紹介してくれた。気さくな方で娘が側にいるのに「誰かいい人いませんかね。すぐ離婚してもいいんです。１回結婚してくれたらそれで十分です」。彼女はアキレ顔だ。

月日がたち、私は定年、彼女は中途退職。信じられないことだが、還暦を機に働くことを決めた。父は娘の花嫁姿を見ることなく他界した。母はカラオケにはまっている。娘はいまだ独身だがそれも人生。

元気とはいえ母子ともに高齢者だ。彼女は家の片付けを始めている。私の古い写真も出てきたと連絡があった。多分、髪ボーボーの写真だろう。私の名前を知らない人からは、髪の長い人と呼ばれていた。