見出し画像

『マーシー』をきっかけに、海外にも “大山食品のファン”を増やしていきたい。 【大山食品株式会社(後編)】

「九州ビネガー会」を構成する醸造メーカーを取材し、各社のものづくりへの思いを紹介するシリーズ「TSUNAGUレポート」。前回に引き続き、玄米黒酢の醸造を行う大山食品の4代目社長・大山憲一郎さんにお話を伺いました。後編では、社長に就任後の新たな商品開発、海外進出などについてご紹介します。


品質を見直し、体に優しい「自然塩」に

 結婚し子どもが生まれた後、健康についていろいろと考える時期があって。家族で食事を変えてみたんです。玄米菜食と、自然岩塩を使った発酵食品を中心にした食事を3カ月間続けました。そうしたら、家族の体調が良くなっただけでなく、私自身の持病もすべて治って体重は10kgも減ったのです。食事の質って大切なんだなあ、と身をもって実感しました。
 
 その経験から、商品の品質について改めて考えました。そこで見直したのが、「塩」です。それまでは精製塩を使用していましたが、ミネラルが豊富に含まれている自然海塩などの自然塩に変更したのです。製造コストは上がりましたが、体に優しいですし、よりおいしくなったという評価をいただいて。それが当社のさまざまな商品に生かされています。

画像1


新商品開発とパッケージ統一で小売を強化

 当社はもともと一般小売には力を入れず、業務用商品と委託製造(OEM製造)をメインに行っていたのです。しかしOEM製造は値段交渉が入り、簡単に他社に切り替えられてしまうことも多かった。安定して経営するには、自社ブランドとしてのファンを増やすことが必要だと考え、一般小売にも力を入れていきました。

 その一貫として、初めに行ったのが商品パッケージの統一。歴史が長いぶん、複数のデザインが混在してしまい、同じ会社の商品だと認識してもらえないことが気になっていたんです。5年ほどかけてデザイナーさんを見つけ、3年かけて、100種類以上ある全商品を新デザインへ変更しました。

 ただ、一般小売となると、すでに低コストで大量生産できる大手メーカーさんがいるため、販路拡大は簡単ではない。だからこそ、黒酢や酢をベースとした新たな商品づくりにも注力していく必要がありました。
 
 そのような動きから、地域の有機生産グループの方々と共同で、酢をベースにした、ごまドレッシングを作ったんです。これをきっかけに、調味料などの新商品開発を積極的に進めていきました。その中で生まれたのが、2009年発売の『マーシー』です。

画像2


料理人と合同開発した、スパイシー調味料『マーシー』

題になって、じわじわと人気が高まり、今では定番の人気商品に。特に若い世代の方々に支持されていますね。

 マーシー氏とは、今でもよく一緒に商品づくりを行っています。自社で商品開発を完結させるのではなく、時には、地域の方々や料理人と力を合わせることで、より良い商品が生まれていると思います。


輸出復活を目指し、アジア・欧米市場へ挑戦

 今では国内だけでなく、アメリカでも人気が高い『マーシー』。しかし、海外で評価を得るまでにはさまざまな苦労がありました。

 当社は30年以上前、商社を通じてヨーロッパのスーパーに大量の玄米酢を卸していましたが、次第に減少し、私が社長に就任した頃にはゼロに近い水準まで落ち込んでいたのです。

 そこで、海外輸出を復活させたいと考えました。まずは5年間アジア市場に挑戦しましたが、価格交渉が難しく、契約に至ることはありませんでした。

 次に欧米市場への進出を試みて、2016年にサンフランシスコで開催されたフードショーに出店。そのとき、『マーシー』が米国大手スーパーマーケットチェーンのメインバイヤーの目に止まったのです。そして、正式な契約と販売までつなげることができました。試験販売の段階で20万本の発注があり、その規模の大きさに驚きましたね。和のホットソースは今までなかったと、海外のお客様に大変喜ばれたそうです。

 今後も海外へアピールしていくため、まずは『マーシー』の生産量アップを目指します。これまで以上の量の原料を確保し、製造スピードを高めていき、将来的には一つの工場で日産70万本を生産することが大きな目標です。


画像3

世代や新たな出会いをつないでいく「TSUNAGU」

 ビネガー会では年に一度キユーピー醸造さんを中心に集まり、意見交換をするのですが、いつも多くの発見がある大変勉強になる場です。皆とても仲が良く、和やかな良い雰囲気で活動しています。

 コロナ禍ということもあり、今回初めてオンラインでの総会を開催しました。意見交換をする中で、「こんな時代だからこそ、SNSを活用してみては?」という提案があり、皆がそれに賛同して「TSUNAGU」がスタートしました。

 これまで、世代や業界をつないできたのがビネガー会であり、お客様と製造者の新しいご縁をつないでいく大切な場でもあるので、「TSUNAGU」という名が本当にふさわしいと思います。先輩たちが作り上げてくれた素晴らしい会を、これからも良い形でつなぎ、盛り上げていきたいですね。

―後編 おわりー


画像4


(プロフィール)
大山 憲一郎 おおやま けんいちろう
食酢・こんにゃく・農産加工品の製造販売を行う大山食品株式会社代表。1967年生まれ。東京農業大学農学部醸造学科を卒業後、西ドイツのワイン農家にて1年間研修を受ける。帰国後、24歳で大山食品㈱に入社し、39歳で4代目社長に就任。現在、九州ビネガー会の会長も務める。最近は、会社敷地内にコンテナを活用した社員食堂兼BARも設置。憧れだったオリジナルの日本酒づくりも開始している。
●大山食品株式会社ホームページ https://www.ohyamafoods.com