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理学療法士・作業療法士が知っておくべき腰痛の評価と介入 〜科学的根拠に基づく痛みの基礎〜
こんにちは、理学療法士の赤羽です。疼痛について解説するシリーズ第17回目になります。今回は、理学療法士・作業療法士の皆様に向けて、臨床で頻繁に遭遇する腰痛に対する介入の概要を詳しくお伝えしていきます。
腰痛は現代社会において非常に一般的な症状であり、多くの人々がその影響を受けています。その多様な原因を理解し、適切に対処するためには、多角的な視点からのアプローチが不可欠です。本記事では、腰痛の定義、分類、評価モデル、そしてエビデンスに基づいた介入アプローチまでを網羅的に解説します。
腰痛の定義と分類
腰痛は、発症期間によって以下の3つに分類されます。
急性腰痛:6週間以内
亜急性腰痛:6週間~3ヶ月
慢性腰痛:3ヶ月以上
また、病態による分類は以下の通りです。
特異的腰痛
椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症など、明確な病理解剖学的原因が特定できる腰痛。
非特異的腰痛
明確な原因が特定できず、機能的・心理社会的要因が複雑に関与する腰痛。
レッドフラッグ(危険信号)
重篤な脊椎疾患(腫瘍、感染、骨折など)の合併を疑う重要なサインとして、以下の症状には特に注意が必要です。
発症年齢が20歳未満または55歳以上
時間や活動性に関係のない腰痛
胸部痛を伴う
癌、ステロイド治療、HIV感染の既往がある
栄養不良状態
原因不明の体重減少
広範囲に及ぶ神経症状(麻痺や感覚障害)
構築性脊柱変形
発熱
腰痛の評価モデルと分類システム
腰痛の評価には、以下の4つのモデルが重要です。それぞれのモデルを理解することで、より適切な介入戦略を立てることができます。
(1) 病理解剖モデル
画像所見や病理所見に基づいて腰痛の原因を特定しようとするモデル。ただし、多くの腰痛は画像所見と症状が一致しないため、他のモデルと組み合わせた評価が必要です。
(2) バイオサイコソーシャル(BPS)モデル
腰痛の多くは心理社会的要因が深く関与しています。心理的・社会的リスク因子(イエローフラッグ)の評価が重要です。例えば、痛みに対する破局的思考、不安、職場での不満、過度の安静などが症状の慢性化を引き起こします。
(3) オサリバン分類
腰痛を特異的腰痛と非特異的腰痛に大別し、非特異的腰痛をさらに中枢性疼痛と運動関連腰痛に分類します。運動関連腰痛は動作制限(Movement Impairment)と制御障害(Control Impairment)に分けられます。この分類は、より具体的な介入戦略を立てる上で非常に役立ちます。
(4) マッケンジー分類(MDT)
マッケンジー法は、症状の変化を評価し、以下の4つのカテゴリーに分類します。
Derangement Syndrome:特定の負荷(姿勢や動作)で症状が短時間で改善する。
Dysfunction Syndrome:可動域の終末域で症状が誘発される。
Postural Syndrome:同一姿勢の継続で症状が誘発される。
Other:上記に該当しないもの。
参考:岩貞吉寛,マッケンジー法概要,徒手理学療法,21(2):51-55.2021
エビデンスに基づく介入アプローチ
腰痛の介入は、急性期、亜急性期、慢性期でアプローチが異なります。それぞれの時期におけるエビデンスに基づいた介入法を解説します。
急性期の介入
急性期では、過度な安静臥床は推奨されず、可能な範囲で日常生活を維持することが重要です。患者教育を通じて、痛みのメカニズムを理解させ、不安を軽減することが目標となります。
亜急性期・慢性期の介入
亜急性期・慢性期の介入では、オサリバン分類を基にしたアプローチが推奨されます。
中枢性疼痛:認知行動療法やリラクゼーション、段階的な活動向上を行います。
動作制限:リラクゼーション技術や運動恐怖への対応を行います。
制御障害:運動制御訓練や姿勢認識トレーニングを行います。
その他の介入手段
運動療法:個別化されたプログラムや有酸素運動が推奨されます。
徒手療法:関節モビライゼーションや軟部組織へのアプローチを行います。
患者教育:痛みの理解や自己管理方法の指導を行います。
心理的アプローチ:認知行動療法や段階的な負荷漸増法を併用します。
予後に影響する因子
腰痛の予後には、心理社会的要因(恐怖回避信念や職場環境)、身体的要因(運動制御能力、体力)、環境的要因(社会的サポートや生活習慣)が複雑に関与します。これらの因子を考慮した包括的なアプローチが重要です。
まとめ
腰痛に対する理学療法アプローチでは、適切な評価と分類、多面的な視点に基づく包括的な介入、そして患者中心のケアが不可欠です。個々の患者に最適な治療プログラムを提供するため、理学療法士・作業療法士は最新のエビデンスを活用し、継続的なフォローアップを行うことが求められます。
今回のポイントを3つにまとめると、以下のようになります。
多面的な視点に基づいて包括的な介入を行う
腰痛の適切な評価と分類を行い、それに対応した介入をする
分類にはさまざまな方法があることを理解する
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