評価されるという特殊な状況となんでもない時間の大切さ 〜学生指導の悩みと乗り越え方〜
はじめに
こんにちは、理学療法士の大塚です。皆さんは臨床実習はどんな思い出がありますか? 僕の場合は、5週間の評価実習ではバイザーとの関係性は良好だったと思いますが、課題の履修に問題があり、学校に戻ってから大量の課題を再提出した記憶があります。治療実習でも言いたいことが言えなかったり、質問しようにも何を質問していいのかわからず黙っていると「何も考えていないの?」と言われてしまうことがありました。正直、質問したり、話を聞いたりといった知らない環境でコミュニケーションを取るのが非常に苦手なため、毎朝「行きたくないな〜」と思いながら家を出たことを覚えています。
臨床実習は、理学療法士・作業療法士を目指す学生にとって、学びを深める重要な機会です。しかし、実習の評価や内容が担当バイザーとの相性によって左右されることがあるとしたら、どう感じるでしょうか。学生の将来を左右する評価が、コミュニケーションの難しさや緊張感によって影響を受ける現状があります。
臨床実習における課題
多くの学生が直面する課題は以下のようなものがあります。
1. 学力面での不安
基礎知識の実践への応用に戸惑う
患者さんの前で何をすべきか判断できない
評価手順を忘れてしまう
2. 社会性に関する課題
緊張で声が小さくなる
患者さんやスタッフへの挨拶がぎこちない
質問のタイミングが分からない
3. コミュニケーションの壁
患者さんからの情報収集が不十分
カルテ以外の情報を引き出せない
困ったことを相談できない
一方で、指導者側にも不安や緊張があります
自分の指導方法は適切だろうか
厳しすぎる、または優しすぎるのではないか
他のスタッフからの評価が気になる
なぜ緊張が生まれるのか?
この状況が生まれる根本的な原因は、「評価される立場」という特殊な関係性にあります:
学生側:
全ての言動が評価対象となる緊張
失敗が許されないという過度なプレッシャー
自分の実力を正しく示せるか不安
指導者側:
指導内容や評価の適切さを問われる
他スタッフからの指導方法への評価
学生の将来を左右する責任の重さ
両者:
評価を意識するあまり、本来の学びや指導に集中できない
自然な対話や関係性の構築が難しい
だからこそ必要な「評価されない時間」
ちょっと思い出してみてください。
ドラマでよくある風景で。残業で疲れている時、先輩が「お疲れさん」と声をかけながら、そっとコーヒーを差し出してくれる場面。あの何気ない瞬間に、どれだけ救われたかといったような描写がのちに出てきます。
ドラマのようにうまくいくとは限りませんが、実習中に同じようなことをしてみてはいかがでしょうか?
常に評価される環境だからこそ、あえて「何もしなくていい時間」「評価されない時間」が重要になります。お茶タイムの本質的な価値は
1. 評価から解放される時間
無言でも構わない
会話を強制されない
正解を求められない
2. ただそこにいることを許容される空間
失敗を気にしなくていい
言動を意識しすぎない
互いの存在を自然に受け入れる
お茶タイムがもたらす、もう一つの学び
実は、このお茶タイムには、臨床家として成長するためのヒントも隠されています。
バイザーが実習生の好みを知ろうとする過程:
「どんなお茶が好きですか?」
「甘いものは苦手ですか?」
「温かいものと冷たいもの、どちらが好みですか?」
このような何気ない会話や観察から:
相手のことを知ろうとする姿勢
細やかな嗜好の把握
適切なタイミングでの声かけ
相手に合わせた環境づくり
これらは、まさに私たちが臨床で大切にしている:
患者様との信頼関係構築
個別性の重視
その人らしさの理解
適切な介入のタイミング
と同じではないでしょうか。
お茶タイムは単なる休憩時間ではありません。
実習生と関わるこの経験が、臨床家としての視点をより豊かにしてくれるはずです。
実践のポイント
時間設定のコツ
5-10分程度の短時間で区切る
午前の評価実習後や午後の治療後など、区切りの良いタイミング
学生が疲れている様子が見られたとき
場所選びの工夫
スタッフルームの一角
休憩室
人目を気にせず話せる環境
飲み物・お菓子の選び方
学生の好みを事前にさりげなく確認
アレルギーの有無をチェック
季節に合った温かい/冷たい飲み物を用意
コミュニケーションの取り方
「少し休憩しませんか?」と自然に誘う
無理に会話を作る必要なし
沈黙も大切な休息時間として受け入れる
実施時の注意点
1. コンプライアンスへの配慮
長時間の会食は避ける
院外での交流は控える
過度な接待にならないよう注意
2. 心理的負担への配慮
参加を強制しない
話題は学生の様子を見て選ぶ
プライバシーに関する話は避ける
期待される効果
1. 学生側のメリット
緊張の緩和
質問のハードルが下がる
モチベーションの向上
2. 指導者側のメリット
学生の理解度の把握が容易に
指導方針の微調整が可能
信頼関係の構築
臨床の視点の深まり
明日からの実践へ
たった5分のお茶タイムが、実習全体の質を大きく変える可能性を秘めています。そして、それは実習指導だけでなく、私たち自身の臨床家としての成長にもつながるのです。
明日から、この小さな一歩を始めてみませんか?
簡単なステップから始めましょう:
お気に入りのお茶やお菓子を用意
適切なタイミングを見計らう
気軽な声かけから始める
この小さな実践が、より良い臨床実習環境づくりの第一歩となり、同時に私たち自身の臨床家としての視点も豊かにしてくれるはずです。
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