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#未来のためにできること—世界の課題のメジャーバンド化

マイナー時代から応援していたバンドがメジャーデビューすると、素直に応援できなくなるのは、全人類に共通する感覚かもしれない。少なくとも私にはそう感じられる。ただし、私にとっての「バンド」はSDGs(持続可能な開発目標)、正確にはその前身のMDGs(ミレニアム開発目標)だった。

約20年国際協力の世界で働いてきた。ボランティアとして途上国に飛び込み、大学院でMDGsを学んだ。MDGsは2015年までに達成すべき途上国向けの開発目標で、貧困を半減するなど野心的だった。理想に燃えていた私は「すごい、かっこいいな」と感動し、授業後MDGs策定に携わった先生に質問を重ねた。

大学院卒業後、民間企業を経て、国際機関で専門家として各国で活動し、現場から政策まで携わってきた。国際会議やNGOのレポートで「MDGsの達成状況はどうか」といった話題が都度取り上げられた。外交官、国連職員、NGO職員の誰もがまずMDGsを考える。そう、私たち国際援助コミュニティはMDGsという「バンド」に熱狂していたのだ。

しかし、この「バンド」は日本社会ではマイナーだった。帰国し、友人と酒を酌み交わしながら「どんな仕事をしているの?」と聞かれて「MDGsに関わる仕事だよ」と答えても、通じた試しがない。それでも少し得意げに「MDGsっていうのはね…」と説明するのが定番だった。友人が知らないことへの残念さと、自分だけが知っているという愉悦が入り混ざっていたのだろう。

2015年、MDGs終了とともにSDGsの時代がやってきた。SDGsは途上国だけでなく世界中の人々が対象だ。国際開発の現場から大学に移った頃、日本でSDGsがメジャーバンド化した。日本全国大人から子供まで、誰もがSDGsの達成が重要事項と考えている。教え子たちは私よりSDGsを知っているではないか。

最近「SDGsに関わる仕事だよ」と言っても、友人に「ふーん、そうなんだ」と返される。MDGs時代から応援していた私には寂しい限りだ。ただ、世界はSDGsのメジャー化で確実に良い方向へ向かっている。

世界にはまだ重要だがマイナーな開発課題が多い。若者がSNSを駆使し、それらの問題に光を当て、SDGsのように自らの問題として捉え、未来がもっと良くなることを願う。—無論、私のようなひねくれ者の心中は複雑であろうが。

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