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「儚い女の子」には別の意味でなれたような気がしている元美容垢
私は2017~2019年の美容垢で生きていた。
美容垢を始めたきっかけは、高校デビューをしたかったから。だったと思う。中学の同級生が誰もいない、電車とバスの二刀流で1時間半かけて通う高校。「可愛くなりたい」より「生まれ変わりたい」の方が何十倍も強かった。
同時期ぐらいにTwitter(現:X)を始め、たまたまTLで流れてきた「高校デビューに向けた垢抜け方法」といった内容のツイートに惹かれた。
メイクといえば色付きリップ程度。スキンケアなんてしたこともなく何度読んでもハテナが増えるばかりだが、もっと知りたくなる自分がいた。
気付けば別アカウントを作成して美容垢で情報収集、大好きなアイドルに憧れて「こんな女の子になりたい」欲は増していくばかり。毎日が新しくて、これが乙女心なのかと胸が弾んだ。
高校デビューはたったの3ヶ月で残酷に散り、卒業までひとりだった。アルバイトも3ヶ月目で大体ボロが出て嫌悪の目を向けられてしまうし、社会人になってからも3ヶ月で休職した。私は「3ヶ月」の呪いにかけられているのかもしれない。私に欠点がありすぎると分かっていても、だ。
クラスメイトからは存在すら曖昧だったと思う。ある意味、美容垢で目標としていた「儚い女の子」になれたのかもしれない。今は「目を離したら消えちゃいそうな女の子」より「もう消える女の子」になりたいとさえ考えるほど捻くれた。
そもそも、今は“女の子”ではなく“女性”であることにも目を背けたくなる。10代前半から通院している病院でも「九夏ちゃん」から「○○(名字)さん」にいつの間にか変化していた。
美容垢は続ければ続けるほど楽しくて終わりが見えなかった。いじめで辞めた部活を退部した後、アルバイトを始めてお給料はほとんど美容品につぎ込んだ。トマトジュースは毎日飲んでいたし、スキンケアはアクアレーベルの化粧水に白潤のプレミアム、美容液はメラノCC。日焼けした日はハトムギ化粧水を全身にたっぷり。アフターケアはアロエジェルで全身を保湿して、お風呂上りにキレートレモン。ボディクリームはニベアのホワイトニング、ボディソープはホワイトコンク。DHCのビタミンCサプリとはとむぎサプリで透明感。フレグランスはフィアンセかSHIRO。夏はカルピスが似合う女の子になりたかったし、冬はどれだけあざとかわいい女の子になれるかが勝負どころだった。美容垢の子たちがまとめてくれる日焼け対策、坂道メンバーの仕草の特徴、すっぴん風メイクみたいなツイートが本当に本当に大好きで愛おしくて、何度も見返していた。
いつからか私のような美容垢が晒されることが増えた。悪く言えば夢見がち、良く言えばピュア。私は一生懸命な美容垢が今もずっとだいすきだ。
高校3年になり、大学受験に集中するようになってから少しずつ美容垢から離れ、日常垢になりつつあった。唯一高校で友達だと思っていた子にすっぴんをバカにされて晒されたり、当時好きだった人から体形について指摘をされて傷つき、美容なんて続けても仕方がないと思い始めていた。
今の私は美容垢から遠い存在にいる。
時々、TLにあの頃を思わせるような美容垢のツイートが流れてきてその度「あなたはもう十分可愛いよ….大丈夫….痩せなくていい…..ご飯食べて…..ダイエットは色々な方法あるから….無理しないで…..」と余計なお世話目線で"いいね"を押す。
でも、私は今でもトマトジュースを飲むし、スキンケアはメラノCCと白潤、日焼けした日にはキレートレモン、ボディクリームはニベアのホワイトニング。ビタミンCサプリもずっと飲んでる。大人になっても季節ごとになりたい理想像は変わっていない。今年の冬も萌え袖がしたいしチークはじゅわっとした赤ピンクを濃い目に乗せたい。メイクはほぼしなくなったのに。
可愛くなること、綺麗になることを諦めたわけじゃない。可愛く生きれるもんならそっちの方が良い。クリスマスコフレも一度は買ってみたい。
ただ、あの頃みたいな無我夢中さはもうない。
必死で得た情報や考えは、流れていく時間の中で日常に、心にやわらかく溶け込み始めている。
私は美容垢に生かされていた。
今年は白かチェック、赤も黒もある。
どんなマフラーを付けよう。