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いつの間にか魔女になっていたかもしれない

あなたが初めてなりたいと思ったものはなんですか?
人によってはゴレンジャーだったり、セーラームーンだったり。
地に足の着いた園児ならば保育士さんやケーキ屋さんだったりするだろうか。

ちなみにその昔、幼児だった妹に聞いたらバッタと答えたのを覚えている。

私は何よりも魔女になりたかった。
魔女になってほうきで空を飛びたかった。
何をきっかけに魔女への憧れを抱き始めたのかは定かではない。
もしかしたら魔法使いサリーが発端だったかもしれないこのほのかな憧れは、ある一冊の本との出会いによってにわかに勢いづいた。

それが「魔法使いになりたい女の子のためのヒミツの魔女っ子入門」である。(なんと著者はあのムーンプリンセス妃弥子先生!!)

こちらの本は大人になった今読んでも本当に素晴らしい出来栄えで、傑作と呼ぶにふさわしい一冊である。
さすがはムーンプリンセス妃弥子先生です。

幼い私は、中世の魔女狩りやジャンヌダルクを取り上げたページを通して、魔女の迫害された歴史を学び心を痛めた。※ジャンヌダルクが魔女だったのって、常識だよね?

魔法の呪文を唱えるには美しい声が必要であるらしく、アナウンサーや演劇人が学ぶものと同様の発声法をこの本で学んだ。

また、魔女であるには強く美しい体が必須であるということで、イラストで図解してあるヨガと瞑想に毎夜取り組んだ。

歴史のページには幼い私が鉛筆で線を引き一生懸命勉強した跡が残っているし、発声法やヨガのページ横には、正の字でこれまで行った厳しいトレーニングの記録が残っている。

魔法の杖を作るためには満月の夜に一人で特定の木の枝を探しに行き、その枝を割と高度に加工しなければならなかったため難易度が高く、まだ子供だった私は諦めるしかなかった。しかしいつの日か絶対に自分の杖を作るのだという信念の火はその後数年は消えることはなかった。


女児向けの薄い一冊の中に、歴史、発声方法、ヨガ、魔法の杖の作り方、おまじないなど、魔女に関するあらゆる情報が網羅されていた。
まさに魔女になるためのガイドブック的な一冊であった。

「魔女っ子入門」は私に、善き白魔女となるためには、心も体も強く美しくあらねばならないことを教えてくれた。
その強さと美しさで弱き人々の助けとなるのが白魔女の役目なのだ。

私は毎日毎日飽きることなく「魔女っ子入門」で善き魔女へなるためのトレーニングに励んだ。

しかし何度舐めるように読み込んでも、その本には一点、記載が確認できないものがあった。
それは「魔女はほうきで空を飛べるのか」という最重要項目であった。

本では魔女になるために必要なトレーニングと心構え等は教えてくれたが、肝心の魔女になったら何が出来るのか、つまり飛べるのか、魔法が使えるのかの部分については非常に上手く濁してあった。(濁すしかあるまい)

日々公園の鉄棒にまたがりほうきで空を飛ぶイメージトレーニング、また体幹を鍛える自主トレは欠かしていなかったが、何度読み返しても「飛べる」という確固たる記載がないことに私は徐々に不安を覚えるようになった。

魔女っ子入門で答えを探すことを諦めた私は近所の図書館に通い詰め、魔女関係の本を片っ端から読み漁った。

図書館にあるありったけの魔女関連の本を読み終わる頃には、私はある程度の分別を身につけていた。
大人の階段をひとつ上がったのだ。

幼き私を虜にした魔女という生きざま。
思えば私のともすれば暴走しそうな気の強さ、我の強さは、この幼き日々の魔女っ子トレーニングによって善き方向へ矯正されていったのかもしれない。

強く、美しく、しなやかにという現在に繋がる私のモットーはこの日々に培われたものだ。気の強さは、弱き人をいじめるためのものではなく、彼らを守るためのもの。我の強さをコントロールし、美しい心であること。

私は未だに飛べはしないが、もしかしたらいつの間にか既に立派な白魔女になっていたのかもしれない。

幼い日諦めた魔法の杖も、大人になった今なら作れるかもしれない。




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