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『あなたはもういない』《短編小説》【YouTube公開】



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※動画で作ってみました(^^ゞ 
※日本語版と英語版でAI音声の読み上げです(^_^;) 
※『つまんねぇー』以外の感想だったら、チャンネル登録などお願いします(`・ω・´)ゞ



      〜あなたはもういない〜


 どれほどの悲しみを、味わった事でしょう。


 あなたの存在が如何に、私の中で大きな存在だったかって事を失ってから気付くなんて。


 あなたは私にとってかけがえのない人であり、心の支えでありました。


 あなたとつまらない事で喧嘩をして、家を飛び出した時もありました。


 でもあなたは、私が行く宛がない事を知っていて、寒い日の夜にも関わらず、自宅の前で私が帰ってくる事を待っていてくれました。


 私はあなたに抱きついて、大泣きしてしまいましたね。


 あなたの大きな体が、私の体を包み込んでくれたから、私は安心したのだと思います。


 あなたが側にいてくれるからって。


 その後に私は結婚をして、子供を授かりました。


 子供の顔は私より、どこかあなたの柔らかく、優しい顔をした女の子でした。


 娘の名前は、あなたの名前の「幸」から一文字取って「幸子」と授けました。


 きっとあなたに似た優しく、芯の強い子供になる事でしょう。


 私が初めての子育てで、悩んでいて辛かった時です。私が困っていた時も、あなたは察してくれて力になってくれました。


 あなたは私が考えている事、悩んでいる事全てを優しく包み込み、私の声に耳を傾けてくれる良き理解者でした。


 ですが私は一つ、後悔している事があります。


 家を購入しようかと話になり、場所を都内にするか、自然が多い郊外にするか悩んでいた時期でした。


 今住んでいる場所は交通の便が良いが、土地は高く予算を伸ばさなければならない。だが郊外なら比較的予算内で検討出来るけれど、交通の便は悪くなる。


 私はあなたに相談しましたが「私が決める事ではない。あなた達が考えて決めなさい」と言いました。


 幸子はまだ小さく、これからの生活を考えると無理は出来ませんでした。それに、自然の多い所でゆっくりと流れる時間の中で、家族と過ごしてみたいという憧れもありました。


 結果、郊外の戸建てを購入しました。それが今の住まいになります。自然に囲まれた生活は幸子が喜びましたが、あなたと幸子は会う機会が少なくなっていきました。さほど不自由はせずに、快適な暮らしが出来て安心していました。


 そんな時に、あなたの訃報を聞きました。


 私の後悔は、ただ一つ。


 どうしてもっと、あなたに会わなかったのだろう。


 どうしてもっと、あなたに幸子を会わせてあげなかったのだろう。


 今の私には、もうそれが出来ません。


 ただ今の私が出来る事は、あなたが可愛がっていたこの幸子を立派に育てあげる事です。


 あなたが、私にしてくれたように。


 お母さん。


 今まで、ありがとう。 


 そして、さようなら。


 追伸


 この手紙を、幸子に読ませてあげたいと思います。


 私がお母さんの事を忘れない為にも……。


 私とお母さんの事……。


 私がお母さんに対する贖罪や感謝の気持ちを、幸子に知ってもらいたいから。


 幸子がこれから成長すれば、いずれ反抗期が来ると思います。


 成人を迎えたら、素敵な人と結婚して子供が出来るかもしれません。


 そう……。


 幸子がそんな時を迎えた頃が、今の私と重なる訳です。一番その時期が、多感な時ですから。


 私はお母さんの葬儀が終わり、行く宛のないこの気持ちを整理する為に、この手紙を書き始めました。


 人間は、簡単に記憶を失う動物です。


 今はいいです。


 それでもやはり月日が経てば、他の物事に意識は向いてしまいます。


 この気持ちを風化させない為にも。


 幸子が私と同じ想いをしない為にも。


 失ってからでは、遅いですからね。


〜三十年後〜


 どれほどの悲しみを、味わった事でしょう。


 あなたの存在が如何に、私の中で大きな存在だったかって事を失ってから気付くなんて。


 あなたは私にとって太陽のように温かく、優しい人でした。そして海のような広い心で、私を包み込み育ててくれました。


 私が思春期を迎えた中学生の頃。


 些細な事で喧嘩をして、家を飛び出した時がありました。


 あなたも小さい頃にお婆ちゃんと喧嘩をして、家を飛び出したようですね。


 でもあなたは、私が飛び出して直ぐに私の後を追いかけてきてくれた。そして何も言わずに、私を抱き締めてくれました。


 それで私は、自分の感情をコントロール出来なくなって、堪えきれずに大泣きしてしまいました。


 きっとあなたの大きな体が……。


 私の体を優しく包み込んでくれたから、安心したのだと思います。


 あなたが、側にいてくれるからって。


 ちょうどその頃です。


 お婆ちゃんが亡くなった直後にあなたが書いた、あの手紙を読んだのは。


 精神的に幼かった私は、手紙に書かれている意味や想いを汲み取る事が、出来ませんでした。


 ですがあなたの事が好きだったから、何度も読み直しました。


 その後私は成人を迎え、結婚をして子供を授かりました。


 子供の笑った顔は、あなたが時折見せる笑顔に似ていて、優しい顔をした女の子です。


 娘の名前をあなたの名前の「優」から一文字取って「優香」と授けました。


 きっとあなたに似て優しく、明るい子供になる事でしょう。


 そしてあなたが手紙にも書いたように、子育てに悩やんでいた時が私にも訪れました。


 私が困っていた時もあなたは察してくれて、力になってくれました。


 あなたは私が子供の頃、手のかかる、やんちゃな子供だったと言いながら、優香を抱き上げる姿を見た時、感慨深いものが込み上げてきました。


 あなたは私が考えている事や悩んでいる事以上に、私の事を考えてくれていた。それが当たり前に大人になるに連れて、感謝の気持ちを忘れていました。


 それでもあなたは変わらず、全てを優しく包み込み、私の声に耳を傾けてくれる、良き理解者でいてくれた。


 私は、その時に気付きました。


 あなたが書いた手紙を読んでいて良かったと。


 ですが私は一つ、後悔している事があります。


 家を購入しようかと話になり、場所を都内にするか、自然が多い郊外にするか悩んでいる時期でした。


 私が幼少時に、あなたが悩んでいた事です。あなたと同じように、私も悩みました。


 今住んでいる場所は交通の便が良いが、土地は高く予算を伸ばさなければならない。


 だが郊外なら比較的予算内で検討出来るが、交通の便は悪くなる。


 私はあなたに相談しましたが「私が決める事ではない。あなた達が考えて決めなさい」と言いました。


 あなたがお婆ちゃんに言われた事を、あなたも私に言いました。


 だから私は、あなたがあの時決断した方とは違う、都内に住まいを持つ事を選択しました。夫と話し合いを重ねましたが、夫は快く承諾してくれました。あなたがあの手紙で後悔していたから……。


 その結果、あなたは頻繁に孫の優香の顔を見に来てくれました。次第に私の時間に余裕が生まれ、時に感じていた子育てに対する息苦しさが、緩和されたように感じました。


 それらの時間は、当たり前の様に過ぎていきました。私はあなたに孫の顔を見せる事が親孝行だと考え、満足をしてしまい、あなたの言葉に甘えてしまいました。


 ですがそんな時間は、突然破られました。


 あなたの訃報を聞いたからです。


 私の後悔は、ただ一つ。


 どうしてあなたが生きている時に、ちゃんと感謝の気持ちを伝えなかったのだろう。


 母娘間に漂う「馴れ」に甘え、どうして素直に言わなかったのだろう。


 当たり前に月日を過ごす中で、あなたに甘え過ぎていた事に気付きました。


 今の私にはもう、あなたに甘える事も、あなたに直接感謝を伝える事も出来ません。


 今の私が出来る事は、あなたが可愛がっていたこの優香を立派に育てあげる事です。


 あなたに似た優しい女の子に。


 それとあなたから教わった様に、この手紙とあなたの手紙を優香に読ませたいと思います。


 あなたや私が、失ってから気付いた事。


 それを優香。


 そして未だ見ぬ孫に、同じ想いをして欲しくないから。


 そうやって受け継がれていく事が大事だと、私は思います。


 あなたが、私にしてくれたように。


 お母さん。


 この場を借りて、先ずは言わせて。


 今まで、ありがとう。


 私と優香を育ててくれて、ありがとう。


 そしてーーー


 さようなら。


《了》




※動画で作ってみました(^^ゞ 
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