書店販売教材への違和感の話
初回に書いたように,会社員時代は通信教育教材(通教)と現役予備校のテキスト・テスト制作の仕事をしていて,独立後に初めて書店で販売されている教材の仕事を担当しました。今回は書店販売教材への違和感について,いくつか書いていきます。
たくさん売れることが目標
携帯電話業界では,新規申込数を増やすだけでなく他社に転出することなく継続して利用してもらわないと,十分な利益が出ません。通教や予備校も同じで,たくさん入ってもらうだけでなく継続受講してもらわないと,十分な学習効果も利益も見込めません。生徒の継続受講のためにさまざまな努力をします。
これは,独立後に関わるようになった学校採用の教材や模試でも似ていました。もし教材の品質に大きな問題があると,学校側は翌年から別の会社の教材に切り替えるそうです。
一方,書店販売教材の場合,たくさん売れることが第一の目標になります。真面目に学習効果を考えた教材が多いのですが,ときどき「たくさん売れさえすればOK」といった企画の学習参考書や問題集を見かけます。ヒット教材の露骨なモノマネ教材や安易に有名キャラを全面に出した教材は,この傾向が強いかもしれません。
紙面の誤りへの対応が遅い
以前にも書きましたが,通教教材は紙面の誤りに対してとてもきびしいです。紙面の誤りが発覚すると,他にも誤りがないかを確認したうえで受講者全員に知らせます。独立後に受注するようになった模試でも,誤りが発覚するとすみやかに対応しないといけません。
独立後に書店販売教材の仕事を受注して驚いたことの一つは,紙面の誤りが発覚しても,「増刷のときに直します」といった対応をすることでした。過去には「紙面に誤りが残るのは仕方ない」と開き直った書店販売教材の教材編集者もいました。
また,ある版元(出版社などのこと)のサイトを見たとき,教材の訂正表のPDFがアップされていました。その後,訂正表がアップされていた教材を書店で見かけたとき,教材には訂正表がはさみ込まれておらず,そのまま販売されていました。
余談ですが,私(中村)が仕事の資料として書店販売教材が必要なときは,一部の例外を除いて,ネット書店ではなくリアルの書店に出向き,奥付を確認して初版ではないものを購入します。初版本はいろいろと紙面の誤りがありそうだからです。
QRコードで映像授業が見られても…
映像授業講座で使うテキストの編集を受注したことがあります。映像授業講座は,授業動画とテキストの両方を使って学習するように設計されています。授業動画とテキストのどちらか一方が欠けても,十分な学習効果は見込めません。
ところで,いまどきの書店販売教材では,紙面にQRコードが掲載されていて,スマホでQRコードを読み込むと授業動画が見られるものがあるようです。
ただ,書店販売教材の場合,映像授業講座と違って,ふつうは製本された教材だけで十分な学習効果が出るように設計されています。わかりやすい紙面ならば,わざわざQRコードを読み込んで授業動画を再生する必要はないでしょうし,授業動画の再生回数が増えるということは,紙面の説明がわかりにくいことを示します。
理科の実験などのように,紙面で再現するのが難しい内容は動画があってもいいでしょうが,単なる授業動画をオマケでつけるのなら,紙面の中身を作り込むほうが重要と思うのでした。
小中教材は供給過剰
教材にかぎった話ではないのですが,書店で販売される書籍は一部を除いて委託販売です。これは書店に販売を委託して,売れなければ版元に返本が可能という制度です。書店はとりあえず書籍を仕入れることができます。
各版元は書店の棚を確保するためなのか,さまざまな教材をリリースしています。大型書店の学習参考書コーナーに行くと,特に小中学生向け教材はさまざまなシリーズの学習参考書や問題集が並んでいます。
書店の学習参考書コーナーで小中教材の棚を見るたびに思うのが,
「こんなにたくさんの種類の学習参考書や問題集は必要?」
ということです。要するに供給過剰という印象です。売れなければ返本できるので,書店は棚に余裕があればとりあえず仕入れるのかもしれません。
供給過剰の場合,一般的には市場原理がはたらき,売れないものは売値が下落して淘汰されていきます。しかし,書店で販売されるほとんどの書籍は再販制度で定価販売が保証されています。売値が下落せずに淘汰されないからか,ずっと供給過剰が続いている印象です。
ところで,教材編集プロダクション(編プロ)の多くは,小中教材の制作が仕事の中心です。小中教材は供給過剰のため,仕事の単価が上がらない一方で,特に教科書改訂の前は,制作を受注する編プロ側が優位の売り手市場です。そのため,仕事の単価の安さは数をこなしてカバーすることになります。ただし,こんな状況で良質の教材を作ることができるかどうかは知りません。