初めて担当したのは通信教育教材
1996年10月に教材編集者のキャリアをスタートさせてから,25年以上が経過しました。私(中村)はもともと大阪の予備校で数学と物理の社員講師をしていましたが,岡山にあった教材出版社の子会社の編集プロダクション(編プロ)に転職して,教材編集者になりました。初めて担当したのが,高校物理の通信教育教材(通教)でした。
さまざまな教材で構成されている
当時,通教のメイン教材は,教科内容の説明ページ,入試問題演習,添削課題などが1冊になっており,別に解答解説集がありました。ほかにも,公式集,在宅模試,センター試験(当時)予想問題集などがあり,さまざまな種類の教材を一通り制作しました。あと,赤ペン先生用に添削課題の指導マニュアルもありました。
ただし,他の編プロのように小中高すべての教材を担当することはなく,高校物理教材だけを担当していればよかったので,いま思えば恵まれた環境でしたね。
紙面のミスにとても厳しい
通教の特徴として,紙面のミスに対してとても厳しいことがありました。一般的な学習参考書や問題集では,よほど重大なミスでないかぎり,重版や改訂のタイミングで修正するようです。ある版元(教材を出版する会社)では,ホームページには教材の訂正表のPDFがアップされているのに,書店では訂正表がはさみこまれることなく売られていました。
通教の場合,ネットが普及していなかった当時,上司から言われたのは,
「入試直前に教材のミスが発覚すると,受講者全員に訂正ハガキを送ることになって膨大な費用がかかるから,ミスは絶対に出せない」
ということでした。また,通教では質問回答サービスがあるので,紙面にミスがあると,受講者からの質問ですぐに発覚します。ミスが発覚すると,ほかの業務を止めてすぐに対応しないといけません。
私もリリース後に紙面のミスが発覚したため,業務を止めて対応しました。その後,始末書を何度も書き直しさせられ,ボーナスの査定を下げられました。
ミスだけでなく,わかりにくい内容やまぎらわしい内容があると,質問回答サービスに次々と質問が来ます。内容によっては編集者が対応しないといけませんから,わかりにくい内容やまぎらわしい内容を避けないといけません。そのため,1ページあたり最大で10人くらいチェックしていたこともありました。
制作サイクルが短い
一般的な学習参考書や問題集は制作期間が半年から1年くらいで,校了(校正を終えて制作が終了すること)は1年に1~2回です。一方,通教は月刊なので,毎月校了があります。しかも,原稿入手から1か月で校了するのは難しいですから,常に数か月分の教材を並行して制作していました。
いま思えばけっこう大変な環境でしたが,このような環境で数年間制作を経験すれば,たいてい一人前の教材編集者になれました。約3年間担当した私もその一人です。
他社で編集経験のある人は苦労していた
当時働いていた編プロは,転職してきた社員が多かったです。私のように,教材編集が未経験で転職した人間は,特に違和感もなく仕事を覚えていきました。
一方,他社で教材編集を経験して転職してきた人たちは,転職前と違って短い制作期間やミスに対する厳しさには慣れず,かなり苦労していたようです。外注先の編プロも書店販売教材の仕事が中心で,通教の仕事に慣れていないケースが多く,苦労していたようです。