中医学的 梅雨・夏の養生法
「夫四時陰陽者、万物之根本也。所以聖人春夏養陽、秋冬養陰、以従其根。故与万物沈浮於生長之門。逆其根、則伐其本、壊其真矣。故陰陽四時者、万物之終始也、死生之本也。逆之則災害生、従之則苛疾不起、是謂得道。道者、聖人行之、愚者佩之。
従陰陽則生、逆之則死。従之則治、逆之則乱。反順為逆、是謂内格。是故聖人不治已病治未病、不治已乱治未乱、此之謂也。夫病已成而後薬之、乱已成而後治之、譬猶渇而穿井、闘而鑄錐、不亦晩乎。」
(黄帝内経素問 四気調神大論篇 第二)
『四季による陰陽の変化は、万物の根本である。聖人は春夏に陽気を養い、秋冬に陰気を養ってその根本に従う。故に万物はともに生長と収蔵を繰り返す。この根本に逆らえば大本にある真元の気を壊す。四季陰陽の変化は万物の終始で死生の本なのだ。これに逆らえば災害が生まれ、従えば病気は起こらない。これを養生の道を得たという。「養生の道」は聖人は行い、愚者は逆らう。
陰陽に従えば生き、逆らえば死ぬ。従えば治り、逆らえば乱れる。陰陽の法則に順応せずに逆らうことを内格(体外と体内が調和しない状態)と言い体調は乱れる。聖人は既に発病してからではなく「未病」を治す(病気になる前に治す)。反乱が起きてから治めるのではなく、反乱が起こる前に治める。病気になってから薬を飲んだり、反乱が起こってから治めようとするのは、のどが渇いてから井戸を掘り、戦いが起きてから武器を鋳造するようなもので、すでに手遅れである。』
このように中医学では四季陰陽の変化に従って生活することがとても大切と教えています。
[夏は5月5日立夏から小満、芒種、夏至、小暑、大暑の最終日8月6日まで]
夏三月、此謂蕃秀。天地気交、万物華実。夜臥早起、無厭於日。使志無怒、使華英成秀、使気得泄、若所愛在外。此夏気之応、養長之道也。逆之則傷心、秋為痎瘧、奉收者少、冬至重病。
(黄帝内経素問・四気調神大論)
『夏の3ヶ月、これを「蕃秀(ばんしゅう)」という。天地の気は交わり、万物は花開き実を結ぶ。夜になると眠り早起きし、太陽を厭わず、気持ちを愉快に保って怒らず、外で活動して気を排泄させる。これが夏の気に応じた養生の道である。これに逆らえば「心」を傷め、秋に痎瘧(マラリア)により体調を壊し、冬には重病になる。』と、2300年以上前に出来た最古の医学書『黄帝内経』に書かれています。
5月4日の立夏が過ぎ「夏」を迎えると、自然界では「陽」の気が旺盛になり、天の気と地の気が交わり「風調雨順」(天候が順調)ならば、万物は成長し花開く季節です。どんどん活動が活発になり、自然界の気は「生」から「長」に変わります。 夏の主気は「暑」で、気温が上がり温かい日が訪れ、外に向かって活動的になります。
私たちも自然界の気に合わせて、この季節は、自分から積極的に能動的に行動する季節です。コロナ禍でなかなか難しいですが、この季節は家にじっと閉じこもっていないで、外で活動することがおすすめです。
カラダの中の「気」を外に発散させ、秋冬の間に溜め込んだ「邪気」をデトックスするのもこの季節。ゆえにダイエットに適するのも春夏になります。
梅雨・夏の養生法をまとめて掲載すると非常に長くなってしまいますので、梅雨が明け本格的な夏になる前に、夏の養生法を改めて記載させていただきます。
しかし、日本では夏の前に梅雨の養生を…
中医学が生まれた中国の中原地方(黄河流域)は、長夏(ちょうか)と呼ばれる夏の終わりごろにシトシト降る長雨の季節があります。
日本でも秋霖とよばれる秋の長雨もありますが、台湾や中国の揚子江流域の江南地方と同じく夏の前に「梅雨」があります。梅霖とも言います。
春の終わりごろになると揚子江気団と南から北上した熱帯モンスーン気団が衝突して5月の上旬には南西諸島で梅雨前線が発生し、その後6月にかけて梅雨前線は北上して西から順に梅雨入りし、6月中旬ごろに北海道を除く東北地方も梅雨に入ります。(一方6月中旬ごろから梅雨前線が北上するにつれて沖縄や南西諸島から順に梅雨が明けていきます)
梅雨と土用の養生は「湿」と「脾」がポイント
中医学の基礎となる考え方の陰陽五行論に基づくと、梅雨と土用は土に分類されます。土用については春の最後の節気の【2022 穀雨の養生法】でも書きましたが、同じことが梅雨にも当てはまります。
立春・立夏・立秋・立冬の前18日間が各土用となり、季節の「気」が移り変わる節目で「気」が乱れやすい時期で、少しずつ新しい季節の「気」に順応しながら用心して調整が必要だということでしたね。
今年は6月11日が雑節の入梅になりますが、だいたい芒種から小暑までの3週間~1か月間ぐらいが梅雨の季節になりますので、この期間も土用と同じ「健脾利湿」の養生法が大切になります。
「健脾利湿」とは、脾(お腹)を健やかに保ち、水分の巡りを調えることです。
【2022 穀雨の養生法】で「湿」と「脾」の養生
https://note.com/kyoyakuzen/n/n9d4eaa743631?magazine_key=m01e8da0e49ae
こちらを参照してください。
特に四方を海で囲まれた日本は、気候風土も私たちのカラダも水が豊富で潤いが多いのが特徴ですね。中国大陸やアメリカ中西部など乾燥した土地とはずいぶんその土地の特質が異なります。私たち人間の体質もずいぶん異なるので、化粧品なども内陸部と沿岸部では肌の目的に合わせて成分を変えて作られているようですね。この水や潤いが過剰になると「湿邪」という邪気に変わり災害や病気を引き起こすと考えます。
線状降水帯など短時間に大量の雨が降ったり、逆に長雨が何日間も降り続いたりすると川の氾濫や土砂崩れなどを引き起こすように、カラダの中でも水の巡りが悪くなると湿痰や水滞と呼ばれる体質になりさまざまな病気が引き起こされます。「怪病多痰」と言い、アレルギーや膠原病など完治が難しい病気や原因不明の難病などは湿邪が原因と考えられることが多いのです。
また、五志では「思」が土に属し脾とも同じグループで関係が深いと考えます。日本人は特に周囲に配慮するあまり「他の人からどう思われてるだろう?」とか「こんなこと言ったら嫌われるかな?」などと「気を遣い過ぎる」ことが多いと言われ、そのことも脾を傷める原因と考えられます。
病院で検査を受けてもどこにも異常はないのに、胃がシクシク痛み下痢や便秘を繰り返し気鬱になったりするが金曜日の夕方になると不思議と症状が消え、日曜日の夜になるとまた症状が現れるといったことが起こります。
西洋医学ではストレスによる機能性胃腸炎と言われますが、中医学ではそのような体質を「肝気犯胃証」とか「肝脾不和証」と呼びます。
気を遣い過ぎることでストレス過剰になって肝を傷め相生相剋のバランスが崩れ木剋土(肝剋脾)が過剰になり過ぎ“相乗”と呼ばれる状態になり、脾胃に症状が現れます。
また、「こうでなければ気が済まない」というような拘り(こだわり)が強すぎるのも脾を傷める原因です。ルールやルーティンが全然ないのも困りますが、あり過ぎても困るのです。なに事もバランス感覚が大切ですね。
「一芸に秀でる」や他とは違って「尖がってる人」が良いとも言われますが、中医学ではすべて「中庸」という状態が平穏で安寧を保たれた最も良い状態と考えるのです。
なにごとも「過ぎたるは及ばざるがごとし」が何よりも大切だと考えます。
湿度が高い日や雨の日などは体調が悪いという方は、脾の弱い体質と考えられます。【2022 穀雨の養生法】をご参考に健脾利湿の養生をしっかり行って脾の働きを健やかに保ちましょう。
【2022 穀雨の養生法】はこちらを参照してください。
https://note.com/kyoyakuzen/n/n9d4eaa743631?magazine_key=m01e8da0e49ae
外からの湿と内からの湿…
自然界には六つの気「風・寒・暑・湿・燥・火」がありますが、これが邪気になると、「風邪、寒邪、暑邪、湿邪、燥邪、火邪」の「六淫」になります。一方、体の働きが低下すると自分自身の身体の中から「内風・内寒・内湿・内燥・内火」という邪気を生じこれを「内生五邪」といいます。
このように、湿邪は外から入ってくる「外湿」と体内から生じる「内湿」に分かれ、いずれも身体にさまざまな不調を引き起こす原因となり、それぞれに対策が必要となります。
湿邪が身体の中に長く停滞すると、さらに「痰」呼ばれる邪気に変わり「怪病多痰」と言われ、原因不明や治療法が無いややこしい病気の多くは「湿邪」が原因と考えられます。
湿邪は湿度の高い季節に発生しやすく、梅雨の時期は特に気を付け、食事や生活の工夫で湿邪を追い払い、梅雨を元気に過ごしましょう。
ココロとカラダの養生におすすめの食べ物
美味しい食事を楽しんだり、友人や家族とおしゃべりをしたり、毎日を心地よく過ごしてココロを元気にすることも大切です。暮らしの環境は自分自身でつくっていけます。ストレスを溜めず、いきいきと元気な毎日を過ごすことを意識して心がけましょう。
梅雨の薬膳処方
出来るだけお腹の働きを低下させる食べ物を控え湿の溜まりやすい食生活に注意しましょう。
そして、脾胃の働きを高め、津液を巡らせ、湿邪を取り除いてくれるものを摂りましょう。
おすすめの食べ物や薬膳食材
1.辛温発散
辛味で温性の食材で発汗して湿を排泄。冷や奴や冷麺、素面など冷たい物を食べがちな季節。温性の薬味をたっぷり添えて冷えすぎを予防しましょう。
生姜・白ねぎ・紫蘇・香菜(パクチー)・茗荷・三つ葉、桂枝(シナモン)など
2.芳香化湿
温性で、強い香りがある食材で湿を発散。
みかん・さくらんぼ・うど・ミント・山椒・マイカイ花・ジャスミン花・
レモン・香菜(パクチー)・茴香(ウイキョウ)・陳皮・小豆蒄(カルダモン)など
3.苦温燥湿
温性、苦味の食材で湿を乾燥。
うど・陳皮・だいだい・枳穀、ふきなど
4.清熱利湿
涼性、苦味の食材で清熱し湿を排泄。
セロリ・セリ・きゅうり・緑豆・豆腐・金針菜・しじみ・はまぐり・緑茶・薄荷(ミント)など
5.利尿袪湿
利尿作用の食材で湿の排泄。瓜類は利尿・祛湿効果があるのでいろいろな料理で摂るようにしたい食材。
はと麦・冬瓜・胡瓜・西瓜・南瓜・糸瓜・苦瓜・金針菜・とうもろこしの毛・小豆・緑豆・黒豆・大豆・そら豆・はも・白魚・茯苓・車前子・コーヒーなど
6.補益脾胃
脾胃を補う食材でお腹の働きを高めて、津液を巡らし湿邪を除去。
米・とうもろこし・長芋(やま芋)・じゃが芋・南瓜・キャベツ・いんげん・豆類・なつめ・干し椎茸・鶏肉・牛肉・たら・いわし・かつお・いしもち(シログチ)・すずき・さば・さけ・山査子など
栄養豊富な食事もかえって負担に
食欲の落ちやすい夏は、食欲増進する激辛や味の濃い料理を選びがちですが、弱った脾胃には大きな負担がかかります。お祭りや暑気払いなどで外食をする時も、できるだけあっさり味を選び、脾胃の疲れからくる夏バテを防ぎましょう。こってりした高脂肪、高カロリーな揚げ物などは、消化に負担がかかりますます脾胃を弱めます。
梅雨だからこそ、毎日を楽しく
雨の日が続くと、外出もおっくうで家にこもりがちになりますが、そんな季節だからこそ、毎日を楽しく過ごす工夫をしたいものです。風通しを良くして、楽しいことをして過ごすことを心がけ、心配したり思い詰めたりして精神的に思い悩むことを控えることが大切です。
悠々自適な暮らしを表現する「晴耕雨読(せいこううどく)」という言葉があるように、雨の日に家で読書をするのはなかなか贅沢なこと。読書に限らず、映画を観たり、梅酒づくりに挑戦してみたり、思い切って部屋の模様替えをしてみたりするのもいいかもしれません。また、雨の日はホコリが立ちにくいので、部屋の片付けや掃除もしやすくなります。
紫陽花(あじさい)や立葵(たちあおい)など、外に出れば季節の花がきれいな花を咲かせています。傘やレインコート、レインブーツなど、おしゃれなレイングッズもたくさん出回っているので、お気に入りを見つければ雨の日の外出も楽しくなりますね。
梅雨はうつ状態になりやすい時期でもあります。電車やバスも遅れがちなので、出かけるときは時間にゆとりを持つようにするなど、なるべくストレスを溜めない工夫も必要です。食事や生活のちょっとした心がけで、心身ともに明るく楽しく過ごしましょう。
食中毒に注意
日本の高温多湿な環境では、カビや虫、食中毒菌などの発生が起こる可能性が非常に高いです。
いつもより注意が必要なのが、食品の保存です。カビが生えたり腐ったりしやすい時期なので、必ず冷蔵庫で保存し、食材は早めに使い切り、台所をこまめに消毒するなどの工夫をしましょう。
梅干を食べると、食中毒の予防になると言われます。また、梅雨の晴れ間を見つけてなるべく部屋を換気し、布団を干すよう心がけ、カビやダニの発生を防ぎましょう。
「冷え」からくる不調に
出来るだけ湯船につかって、暑気あたりで傷んだカラダをリフレッシュ
中医学では、春から夏は「春夏養陽」といって体内の陽気を養うことが養生の基本。しかし、夏でも冷房や冷たいものを摂り過ぎて陽気を消耗すると、陽気不足から冷えが生じ、脾胃の働きが不調になる原因となります。
スーパーの冷凍食品売り場などに近づくと、夏でも冷えるから苦手という方は要注意です。
冷えは血行を悪くし、痛みやしびれなどのを引き起こすので、夏でも冷えに注意し陽気を守り、血行を良くすることを心がけましょう。
一日の終わりは湯船につかってのんびりリラックス&リフレッシュ。そして冷房で冷えた身体を温め、血行を促進しましょう。
沖縄や南西諸島ではすでに梅雨入り。梅雨前線が徐々に日本列島を北上するにつれて、各地も次々と梅雨入りします。
だいたい【芒種】から【夏至】あたりまでの約1か月間が梅雨になります。
雨に濡れて湿邪が侵入しないように雨具などを忘れないよう心掛け、出来るだけお腹を健やかに保つよう心掛けてください。
中医学では養生の基本は、整体観念や天人合一というように自然界の気に調和して日々を過ごしていくことが大切と教えています。
自分の中の感情も、怒ったり不安になったり、喜んだりと目まぐるしく変わるでしょうが、出来るだけ穏やかに朗らかに過ごすことが健康の秘訣です。
旬の新鮮な食ベ物を中心に、今の自分の体質を調えてくれる食材を摂り入れ、多食・偏食・少食を控え、適度な運動や休憩をしながら、早寝早起きをして毎日穏やかな心で楽しく過ごしてください。
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