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【私小説4】 からっぽの手紙

確か年中の時だったと思う、私は登園を拒否していた時期がある。うちの親はそういうのを受け入れてくれる親ではなかったので、最終的には再び園に通い始めるわけだが、園を休んでいる間、同じ組のみんなが先生に無理矢理書かされた「待ってるよ!」的な手紙の束が痛々しかった。ああいう制度は今すぐに廃止すべきだ。場合によってはそれによってますます登園し辛くなる事態も想定できそうなもんだが、まあ先生としても何もしないわけにもいかなかったのだろう。

ただ、こういう事を良かれと思ってガチでやっちゃうタイプは、マラソン大会でビリの子がゴールする時、拍手しちゃう系統の人間よね。


何故幼稚園に行けなかったのか自分でもよくわからない。元々集団行動は向いていないのだろうし、所謂「普通」というのを求められる状況が苦手である事は確からしいし、総ちゃんとも色々あったのかもしれない。でも何か大きな事件が起こって行けなくなったわけではなかったと思う。

なんだかこの場所は合わないなーと、幼心に感じていたんだと思う。大人になった今ならある程度、嫌なら場所を移す事が可能だが、子供はそれができないので登園拒否という形になってしまうだけで実は大した事ではないのかも、とすら思う。あるいは幼稚園に行きたくないのではなくて、家から離れる事に不安を覚えてしまうようなタイプだったかもしれない。私は今でも旅行が好きではない、自宅から放れる事に不安を覚えるからだ。

大学生の頃、彼氏と4泊5日で関西に旅行に出かけた事があった。3日目以降はとにかく帰りたいという事しか考えていなかった記憶がある。その時は実家で暮らしていたが、家がどうなっているのか不安でたまらないからだ。

私はこれを縄張り意識が強い、という言い方をしている。実際私は、気心の知れた人間を家に招くのは嫌いではないが、知らない人にピンポンと鳴らされるのはものすごく嫌いで、多くの場合居留守を使っている。

志向がうちの犬に似ている事に気が付く。無論、うちの犬は居留守は使わず、誰や!ワレ!!と一言大声で吠えるわけだが。クソ可愛いなおい。

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