三次元に逃げ場無し

 どうしたって地球は逃げる側が不利に出来てる。

 なんたって、鬼ごっこもかくれんぼも、鬼は勝ちたきゃ帰れば良いんだから。民役は夜になって泣いて、お母さんにどやされて泣いて、枕濡らす。卑怯だ、反則だ、掟破りだと叫んでも、抉り取られたハートが血を吹くだけ。

 戦から裁判まで、古今東西の天秤、泣かしたやつ勝ち。何を言っても負けなのだ。舞台裏の真理こそ肝に銘じるべき。テキストじみた道徳倫理が何をしてくれるっていうの。車で跳ねられて逆に金を払うなんて摩訶不思議な事が、現実に起こるんだから。

 球上に生まれた悲しみ。天動説を唱えたのは誰だったっけ。地上は空に浮かぶ島だって?端っこまでいけば、逃げ出せたかもしれないな。追いやられたやつみんなで、青い銀河の天の川へ身投げすりゃ、天使になれたかもな。

 あるいは、フリーズドライされたみんなで火星に不時着すれば、黄色い雨がいつか魂を培養し、40億年経って菌型のベイビー産まれるやもしれないよ。断言するけど、宇宙戦争になるよ。怨みを浄化しようと思ったら、晴らす以外にないんだから。博打で負けたやつが、博打以外ではもはや憂さを晴らせないようにね。

 待ち伏せという凶悪無比な手口も、球型惑星の地の利を活かした一例と言える。島型惑星の果てし有る形状ならば、引き離しちまえば未来も見えてくる。
 え?兵器を使う?君は人殺しの天才だよ。そんなこと僕には想像もつかなかった。どうして君みたいなのが、もてはやされるの。あんなにも無害な人が淘汰されてるってのに?
  
 社会の歯車なんて言い方はよそう。余りにカッコ良いし、パワーを感じる。ギアだよ、あのアルビアの坂道を削り取りながら、泥を巻き上げながら、回転していた車輪は誰が回してた?エンジンか?シャフトか?違うね、ギアだよ。エンジンは飯をもらってた、シャフトは横になって働いてるフリしてたじゃないか。

 ギアが、ギアだけが、飲まず食わず誰にも見られない場所で、誰よりも遮二無二回転させられ、金メッキの美貌さえズル向けにしながら、回してたんじゃないか。真っ赤に赤熱し、血管を搾ったように汗を滲ませて。車輪は褒められた、でもギアは使い捨て。富豪の家にホイールとエンブレムが飾ってあるのを見た。勇士だとさ、こいつは目に見える物しか評価しないバカだとすぐ分かった。歯車は逃げ場などないし、あったとしても手も足もでない。突っ走っても直進するだけで、いつか元いた暗闇に帰ってくるだろう。

 四次元ってなぁにって。テレビの中のアイツは、逃げ場がなくて狼狽えてた。爆弾に囲まれて、亀に前後を塞がれて、時には自分の姿さえ見つけられずに、逃げ場を失っていた。こっちへ飛べば良いのにと思うも、それが悲しき平面の壁だ。あいつらは、二次元に居て、何も知らないまま死んでいった。果てに遮られ。

 ところで、クラインの壺に住むヤドカリは子どもができなくて滅びたそうだ。


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