#12:パリさんぽ 近代美術に混乱し、おいしいものを食べる
ミュージアム・パスを活用しようと、あまり近代美術の知見は無いもののパリの観光名所として名高い、ポンピドゥー・センターにある国立近代美術館とピカソ美術館を訪れました。
どちらも予約せずにふらっと立ち寄り、ポンピドゥーの方は20分くらい外に並びました。
始め工事中なのかなと思ったのですが、これが完成形でした。
この外側の長いエスカレーターで5~7階にある美術館まで行きます。
近代美術で有名な画家と言えば、ピカソ、ジョルジュ・ブラック、マティス…。フォーヴィズム(野獣派)やキュビズムなどでしょうか。
アカデミックな古典美術、印象派作品などとはガラリと変わり、抽象画が多いイメージです。自由な表現と言うか、正直言って、全然分からない…。
乏しい知識のまま訪れてしまったので、何が描いてあるのかはっきりしている、もしくはなんとなく形があるものはいいのですが…。
人の顔は顔でなくなり、人でなくなり、線になり、模様になり…。
何が描いてあるの、コレ??
といった作品に囲まれていると、混乱し、それがだんだんと不安になってきて、しまいにはイライラしてきてしまいました。せっかく美しいものを観に来たのに、どうしてこんなに不安にさせられなくちゃいけないんだろう?
今振り返ると、この自分の心の状態の変化はなかなか面白いです。
帰国後に訪れた美術館で聴いた抽象画の解説のひとつに、「抽象画は色々と難しく考えないで、受け身で楽しめばいい」といった話があり、このパリの経験を思い出してなるほどとなりました。
それまではほとんど解説を聞きながら鑑賞していたので、頭で理解したフィルターを通して絵を観るようになっていたのでしょうか。
誰がどんな絵を描こうと、その瞬間、自分が観た時の感覚を楽しめればそれもまた鑑賞の楽しみ方のひとつです。絵を観るのに美しいという感動だけでなくて、楽しいとか面白いとかもありなんですよね。もっと自由にいこう。
ただ、当時はピカソ美術館の訪問も混乱のうちに終わりました(笑)。
それでも青の時代の肖像画や『アルルカンに扮したパウロ』は好きなので観られてよかったです。
かなりの展示数なので、ピカソが好きな方は見ごたえがあって楽しめるんじゃないでしょうか。建物も美しいのと、展示の部屋と部屋の間の動線が面白いです。
パリで観て混乱に陥った近代美術の作品の数々については、最初は「理解できなかった」という挫折感のようなものを感じました。
しかし美術館を出るころには「自分にはまだ早かった」と思うことにしました。
印象派だって少し前までよく分からなかったし、もしかしたら近代美術もこのあと急に好きになるかもしれません。楽しみにしておきます。
近代美術のほか、ミュージアム・パスは期限切れで活用できませんでしたが「近代彫刻の父」であるロダンのロダン美術館にも訪れました。
展示の中に美しい女性の写真があり、カミーユ・クローデルとあります。ロダンの弟子だったということですが、どんな人物だったんだろう?とその場で調べてみたところ…。
ロダンの半分以下の歳で弟子兼愛人となり、才能あふれる女性だったのに、その才能はほとんどロダンの作品制作の助手として搾取されます。結婚をほのめかし続けていたロダンは結局内縁の妻とは別れずカミーユ・クローデルと別れ、彼女は次第に精神を病んで最後は30年精神病院で過ごす羽目に。
内縁の妻だって糟糠の妻なのに愛人と暮らさせられていた…。
私は、フィクション・ノンフィクション、恋愛・仕事問わず、こういう男性が自分の利益のために女性を正当な対価無しに散々利用して無為に時間を浪費させ、挙句に最後は見捨てるというストーリーが嫌いで、ひとりロダンの傑作を前に静かに怒りに燃えていました。
「ロダン、お前って奴ぁ!」
勝手に来て勝手にブチ切れられたら、ロダンもさぞ迷惑だったことでしょう。
ふぅ。いったん落ち着こう。
ここで本来のお目当てを見つけないと。
ロダンには悪いけれど、ロダン美術館に来た本当の理由は、別にあります。
こちら。
ゴッホです。
ゴッホのこの『タンギー爺さん』の絵を観にやってきました。
もちろんロダンの作品も見ごたえ十分ですが、この面白い肖像画を直に観たかったのです。
92×75センチと、なかなか大きな絵です。
なんといっても面白いのはこの背景。ジャポンの浮世絵です。とても精緻に模写していてゴッホの浮世絵への情熱が見て取れます。
タンギー爺さん、もといジュリアン・タンギーは画材屋の主人で、ルノワールなど他の印象派画家のことを調べていた時にも名前を見かけた人物。
当時、前衛的な若い画家を応援していたようです。
手は少し緊張してそうに見えますが、優しい表情を見るとゴッホとの関係が良好だったんだなと感じます。
クレラー=ミュラー美術館の『郵便配達人ジョゼフ・ルーランの肖像』を観た時も思いましたが、個人的には男性の肖像画のバックには、黒だったり威厳を感じさせるモチーフを置いたりするよりも、こういう華やかな明るいものの方が楽しくて好きです。
他にも数は少ないけれどモネやルノワールの絵も展示されています。
さて、お楽しみのパリの食事です。なんといっても美食の街。
とはいえ…実は、1週間のパリ滞在で外食はほとんどしませんでした。
一時期1ユーロ170円まで下がる超円安でしたし、正直レストランに入るのに気後れしていた面もあります。
レストランでよく見かけたのは、ものすごく混んでいて行列ができているレストランか、誰もいないでスタッフが客席でくつろいでいるレストランかの二択でした。
混んでいるといつ出られるか分からないし、空き過ぎていると入らないほうが幸せかも…などと決めかねて、結局は間を取ってスーパーでお惣菜やサンドイッチを買って滞在先で食べる、ということが多かったです。
というか、色々回るのに忙しくてお昼を抜くことも多かったのですが。
そういう訳で手元におやつだけ持って一日中うろうろしていたものの、ある日、どうしても「これ以上歩けない…」と思うほどくたびれて空腹になった時がありました。
そこで手元のスマホからGoogle mapで調べて、レストランより敷居が低いというブラッスリーで近くの評判のいいお店に入ることに。
ブラッスリーがレストランやビストロと何が違うのか分かっていませんでした。アルコールも出すか、料理のボリュームが多いか、ドレスコードがあるか、などのよう。
居酒屋とも言うようですが、私が入ったところはきちんとした料理を出してくれて、ものすごく美味しかったです!
オニオンスープは玉ねぎが甘くてトロトロで量もたっぷり。鴨のコンフィの鴨肉はホロホロでした。デザートも美味しくて、もう一回くらい行きたかったな。
店員さんもとてもフレンドリーで、ひとりでも居心地がよかったです。
Le Florentinという名前で、コンコルド広場やオランジュリー美術館にほど近い場所にあるのですが…今確認してみたら臨時休業?!どうやら移転するらしいです。
スーパーでお惣菜を選ぶのも、顔見知りになった店員さんと挨拶するのも楽しかったですが、やはり出来たての美味しい料理は格別でした。
ところで、観光では私のように歩き回るのに忙しくて食事をスキップすることもあるかもしれませんが、水分はしっかり補給してくださいね!
私は「パリのトイレはアレだから」とか思って知らず知らずのうちにほとんど水も飲まなくなっていたようで、滞在最後のほうで突然、寝ているときに足がつりました…。
・参考資料