肥薩線山線活性化のための新加久藤トンネル新線案―肥薩線再生策②―
前回は、全体的な山線(人吉〜吉松間)の活性化を考えたが、今回は区間ごとの具体的な改善策を考える。しかし肥薩線自体が非常に古く、運行再開にはほぼ新線建設に近い改良が必要であることから、特に運休区間に関しては、全く新しい路線を造るつもりで考える。川線は防災工事と一体なのでほぼ新路線となるだろう。山線も運休が長期にわたり、線路も草木に埋もれるほどなので生半可な改良では復旧できないと考える。加えて宮崎県、鹿児島県にメリットがないと残すことは不可能だから、そのあたりも考慮する。
山線の乗客を増やすには
前回をまとめると、
①鹿児島空港とつなげ、空港連絡鉄道とする
②道路の加久藤トンネルを迂回するための危険物車両などを運ぶ貨物列車の運行
③観光列車で人吉から霧島方面への観光ルートを作る
④人吉を拠点にするビジネス需要の創出(宮崎新幹線はここに当てはまる)
⑤人吉から鹿児島への通学需要の創出
を挙げた。
これらを満たす列車を走らせると容量が足りない。単線で線型が悪い山線は数時間に一本の運行に必要な行き違い設備しかない。特に遅い観光列車とスピードを要求される空港連絡鉄道が同じ線路を走ると双方の役割を果たせない。観光列車はむしろゆっくり走って途中駅でも長時間停車するから待避線もいる。貨物列車には山線の勾配はきつすぎる。今の線路では車で40分ほどで着く人吉〜吉松間が1時間以上かかって自動車に全く対抗できない。せめて人吉〜吉松間を30分で結ばないと利用されない。遅すぎるから空港連絡鉄道やビジネス、通学需要には応えられない。唯一の解決策は、トンネル新線である。トンネル新線が出来れば宮崎新幹線構想を実現しやすくなる。
人吉駅付近は高架化が必要
山線の運休は、人吉駅の浸水で運行システムが作動しないためといわれる。線路自体の被害は少ないので先行復旧の要望も地元からあるが、JRは川線と一体の運行を前提としていて、どちらかのみの復旧を考えていない。ということは、人吉駅周辺の洪水対策として人吉駅高架化が必要である。人吉駅周辺は、1965年の水害でも被災しなかったので、今回の被害がいかに大きいかわかる。近年は最高気温、最低気温、降雨量、最大風速いずれを見ても数値が大きくなり、災害の激甚化傾向がある。今まで冠水しなかった人吉駅も、激甚化する災害で再び水没する可能性が高い。
人吉駅は2階建ての駅舎で、運行管理システムのある場所はおそらく1階だろう。地平の電気系統などが冠水して使えなくなったために山線全体が運行できなくなったと考えられる。
球磨川は日本三大急流とされる暴れ川だ。現在の熊本県知事は鉄道維持に熱心だが、ダム建設に反対である。球磨川上流の川辺川ダム建設に反対し、建設を白紙撤回していた。しかし2020年の熊本豪雨以降撤回を見直し、2035年の完成を目指し工事が再開している。川線の復旧が2033年とされるのも、治水工事と一体なのでこの時期になるのだろう。治水工事で浸水対策をしているのに、水没した人吉駅をそのまま使うのはせっかくの治水工事と一体の復旧を無駄にする可能性がある。人吉駅も高架にして次の豪雨災害に備えるべきである。
人吉駅から相良藩願成寺駅までは複線化
通常分岐する線は、分岐駅から独立した線路を持ち、分岐地点までは単線区間でも単線並列で複線に見える。くま川鉄道の人吉温泉駅(人吉駅)〜相良藩願成寺駅は、1.5kmの間、複線の用地がある。現状くま川鉄道は肥薩線の単線の線路を使っているのでくま川鉄道の線路があったと見られる北側は空き地になっている。肥薩線は相良藩願成寺駅を通るのにホームがないので駅直前で分岐している。ここをくま川鉄道の用地も使って複線化すれば、くま川鉄道も肥薩線も増発できる。特に遅い観光列車を走らせる場合、待避駅の少なさが障害となる。本数の少ないローカル線でも、実際は少ない待避駅で目一杯行き違いをしていて線路容量に余裕がないことが多い。観光列車を走らせる、貨物列車を走らせる、空港連絡鉄道を走らせるなら、複線化で少しでも容量を増やすべきだ。ここを複線化するだけでもスーパー特急方式で宮崎新幹線構想を実現しやすくなる‥
この付近は半径400mほどのカーブが続くので70キロ制限がかかるが、人吉駅近くで人吉駅を通過する列車はないだろうから、ほとんど影響ない。
トンネル入口までの複線化
線型や地形を考え、吉松まで最短ルートで結ぶトンネルを掘るなら、相良藩願成寺駅からは、現在線に沿って2km先の人吉球磨スマートIC付近からトンネルになる。トンネル長は約20km、この付近の標高が140mに対し、吉松駅付近の出口が標高240mなので緩い上り勾配になる。
トンネル入口までは用地買収の支障になるものもなく、複線化可能だ。球磨川を渡った先のカーブは半径1500mまで緩和できる。緩和すればスーパー特急なら160キロ運転も゙可能になる。しかし人吉駅〜人吉球磨スマートIC付近は、加減速中なので2分半から3分かかる。トンネル内で可能な限り高速で走るための高速化である。
トンネル手前に現行路線との分岐点の信号所を設ける。現行路線は観光列車専用線にする。
新加久藤トンネル
新加久藤トンネルは複線電化、約20kmで人吉球磨スマートIC付近から吉松駅の2km北までをほぼ直線で結ぶ。とはいえ人吉側の肥薩線現行路線との分岐点付近に半径2500mのカーブができる。しかしこれても220キロは出せるので宮崎新幹線をここに通す場合でも問題ない。宮崎からは260キロ運転して、人吉駅停車のため減速する区間に入るので、このカーブから人吉駅までの連続するカーブは新幹線運転の支障にならない。
トンネル断面は、新幹線規格で
新幹線建設費の削減で、単線新幹線案などもあるが、トンネルの断面積を小さくて単線にしても、それほど削減効果はない。ということは、20kmにも及ぶトンネルなら、複線化または途中に行き違い設備を設ける必要がある。こうなると良けれに単線トンネルにする意味が薄れる。逆に複線トンネルなら、在来線規格でなく新幹線規格にしても問題ない。
新幹線規格なら、大型コンテナや、コンテナを積んだトラックをそのまま乗せても通れる。多くの在来線非電化トンネルは、高さが低いためにコンテナを積載した貨物列車すら通れない。道路トンネルでもコンテナを積んだトラックは高さがあって、狭いトンネルではコンテナ上部をトンネルの側面をこすることがあるが、同じことが起こる。鉄道の場合車両限界に合わない車両は最初から通さないのでこのような事故は起きないが、これから危険物車両を積んだ貨物列車を通すには障害となる。特に肥薩線のような古い路線の非電化トンネルは高さが低く、通過する列車の制約がある。新幹線規格なら在来線の貨物列車のほぼ全てを通せる。また、トンネル断面積が大きい方が騒音(トンネルドンと言われる空気鉄砲のような空圧で出口に大きな破裂音を出す現象)が起こらなくなる。日本は車両限界ギリギリで小さいトンネルを掘るのでトンネルドン対策に新幹線車両の先頭部を非常に長くアヒルのくちばしのような形にするが、ヨーロッパの高速鉄道は単純な形状である。これは車両の大きさが日本の在来線より少し小ぶりなのに、軌道間隔を広く取るため、新幹線のトンネル断面積よりもかなり大きなトンネルを掘るためトンネルドンが起こらないからである。
宮崎新幹線構想でスーパー特急を走らせるなら、在来線車両でもトンネル断面積を大きくしないと先頭部がやたらに長く定員の少ない車両にせざるを得ないので収益が上がりにくくなる。
この前提で新加久藤トンネルを掘ると、120キロ運転なら10分、160キロ運転なら8分で通過できる。駅間でも、現在1時間以上の人吉〜吉松間が15〜20分になる。
これにより、現在2時間以上かかる人吉〜鹿児島中央間も1時間半程度に短縮される。こうなると熊本市内より近くなり、人吉盆地から鹿児島への流動を生み出せる。違う県への日常的流動を生み出すには、同じ県の県庁所在地よりも時間的に相当便利でないと需要が生まれない。
新加久藤トンネル〜吉松
新加久藤トンネルから鹿児島方面は、現行肥薩線をそのまま複線化する。そして宮崎方面は、宮崎新幹線構想が具体化したときのために以下の3つの案で短絡線を造る。
①小短絡線
新加久藤トンネル出口からは、京町温泉方面への連絡線を建設または用地確保しておく。これは宮崎新幹線構想で出戻り工事をしないためである。イメージとしては、近鉄伊勢中川駅の短絡線のようなものである。
実際作ると半径300m程度のカーブになるのでポイントの速度制限を含めて70キロ制限がかかる。急角度の線を短絡するためカーブ区間は長く、1.2kmほどの長さ。最低限の費用でスイッチバックを避けるための短絡線となる。
②中短絡線
曲線部も減速しないで宮崎方面に抜ける路線なら、トンネル内の国道447号交点から京町温泉駅付近までの短絡線で、半径1200m程度の曲線で作る。これなら鹿児島県内を通らないので作りやすい。約4kmほどの長さになるが、130キロ運転なら制限を受けない。
③大短絡線
どうしても新幹線にと言う場合の短絡線。矢岳駅西側、県境分付近から、吉都線と九州自動車道の交点にかけて半径6000m、9.4kmになる短絡線‥制限速度が330km相当なのでスーパー特急としてもフル規格新幹線としても理想的である。もう少し半径を小さくできないかとも思ったが、一般的な新幹線のカーブである半径4000mにすると、京町温泉の温泉街を通り、ほとんどの旅館を移転させないといけないので温泉街を避けるルートにした。
中短絡線と大短絡線は、宮崎新幹線建設が決まればトンネル内の工事が必要で、列車を止めて工事が必要になる。そのため少し掘っておいて、保守基地に使うと良い。
新加久藤トンネルは約20km、大短絡線は中間地点に近いところで分岐するのでちょうどよい。中短絡線の分岐点は国道直下のため、事故の時の避難路としても使える。
宮崎新幹線開業の場合
新加久藤トンネルを掘り、短絡線の準備をしておけば、ほとんどの区間を新幹線と在来線共用で使用できる。少なくとも人吉〜小林間は在来線を活用して並行在来線問題は解消できる。
人吉〜小林までは、現行ダイヤでは約2時間かかる。加久藤トンネルを160キロ運転して、小短絡線で在来線を100キロ運転した場合、所要時間は40分程度。(えびの〜小林間に急カーブが多く、えびのまでの直線を130キロ運転してもあまり変わらないので急行えびの程度のダイヤを想定)、中短絡線で宮崎県側もえびのまで160キロ運転、小林まで85キロ運転で30分、フル規格新幹線で大短絡線で260キロ運転で20分となる。おそらく中短絡線でスーパー特急として、えびの〜小林間を線型改良するのが現実的だろう。小林から国鉄時代に鉄道敷設構想があった宮林線を建設して新幹線化すれば新八代〜宮崎は50分程度。スーパー特急でも60分程度。
新八代〜鹿児島中央が新幹線で45分程度なので遜色ない。JR九州のことだから、博多からさくらに接続し、「さくら〇〇号鹿児島中央/宮崎」と表示し、同一ホーム乗り換え。上りは「さくら〇〇号博多」「さくら〇〇号新大阪」などとするだろう。スーパー特急方式が最も実現可能である。もしできれば肥薩線山線の需要は、球磨地方と鹿児島空港連絡だけでなく、福岡と宮崎を結ぶ需要も取り込めて大幅に利用者が増える。肥薩線山線の活性化に両方の需要があれば強い。しかし宮崎新幹線を単独のフル規格新幹線にすると並行在来線になって、今の需要では廃止しかなくなる。仮に作るとしても肥薩線山線の活用が可能なようにすべきである。
吉松から先、鹿児島空港連絡鉄道、宮崎新幹線は、それだけでかなり長くなるのでまた別立てで書く。
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