怒りのぶどう スタインベック著/岩波文庫
2020年、未知のウイルスが世界中の人々を不安に陥れました。まだウイルスの全容が知れない中、学校や幼稚園は休校になり、街角からは人の姿が消え、私たちの「ステイホーム」が始まりました。そんなころ、見直されたのが読書でした。読んだことのないジャンルに挑戦、家族と一緒に読書など、普段と違う時間が作れるかも。そのお手伝いとして、京都新聞社の記者がそれぞれ思いを込めた一冊を紙面で紹介しました。あの頃の空気感も含め、note読者の皆さんにも紹介します。
絶望の中、人の善意とは
コロナ禍は感染症による危機ではあるが、経済危機としての側面も無視できない。職と収入を失った人間を周囲がどう扱うかを、本書は農民一家が味わう苦難と屈辱を通して克明に描く。これから起きるかもしれない恐慌状態を知っておくには、うってつけの物語だろう。
1930年代、世界恐慌下のアメリカ。砂嵐によりオクラホマなどで離農者が大量発生。職を求めてカリフォルニアを目指し、家族と家財を満載したトラックがルート66を西進する。スタインベックは、ジョード一家の物語と社会描写を章ごとに書き分け、ルポルタージュ風に筆を進める。
#世界の今後を考える
人は他人を踏みつける一方で、手を差し伸べずにはいられない。絶望だらけの世界にも良心と善意は存在し、救いは人の中にこそあると物語は説く。われわれは、飢餓や戦争を生き延びた人々の子孫として今ここにあることを教えてくれる。
万代憲司