折々の絵はがき(63)
◆絵はがき〈花の習作〉福田平八郎◆
昭和36年頃 京都国立近代美術館蔵
絵はがきからは春の陽気に誘われて出かける人々のくすくすと楽し気な笑い声が聞こえてくるような気がしました。白い玉砂利に見えるのは、よく見ると舞い落ちた桜の花びらです。1枚ごとに異なる色合いが重なり、枝に咲いているのとはまた違う愛らしさをたたえています。まるで気がついた人だけがもらえる贈り物のようだなと思いました。
構図を引き締めるのが、画面を斜めに走る池を区切る板の直線。花びらが囲われた区域一面に浮かび止まる手前に対比して、奥のそれが水面を漂い拡散する姿は池の広がりを自ずと感じさせ、鮮やかにその静と動が描写されています。青々とした菖蒲の葉の緑とともに目をひくのは、盛土が淡い花びらに透ける美しい紫色。そこにはモダンなテキスタイルにも似た模様が広がりました。偶然が織りなす光景はどんなにか福田の心をときめかせたでしょう。季節の移ろいを見事に切り取った1枚です。
福田平八郎は京都で活躍した日本画家です。彼は「写生狂」を自称し、膨大なスケッチには彼の感じた瑞々しい心の震えやユニークな目線が多く遺されています。本作は平安神宮の庭を描いています。自然をこよなく愛した福田のふくよかな眼差しが感じられる、彼にしか描けない作品です。
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