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折々の絵はがき(15)

〈深かわ木場〉小林清親 明治17年 東京都江戸東京博物館蔵

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◆コロタイプ絵はがき〈季趣五題 ふゆしずか 深かわ木場〉 小林清親◆

 雪のなか呆然と立ち尽くす男の後ろ姿に目を奪われ、いったい何を見ているのか、あれこれと思いを巡らせます。手にはふぐとお酒。ふと、お土産がある日は急ぎ足になる自分を思い出し、ああきっと、彼はここまで足を止めずに歩いてきたんだと気が付きました。空からは静かに雪が舞い降りています。大切なひとの喜ぶ顔が早く見たいあまり、周りの景色も目に入らないほど先を急いできたのでしょう。「いつの間にこんなに積もったんだろう」我に返ったみたいに、そうつぶやく声が聞こえた気がしました。いたるところに積み上げられた材木はすっかり白く覆われています。濡れた木の匂いが漂うなか、辺りはしんと静まり返ってひとの気配はありません。この景色は今、彼だけのもの。あっけにとられたように見入る、大きな傘に隠れた無防備な後ろ姿をうらやましいなと思います。

 小林清親は幕府の下級役人の子どもとして生まれ、15歳で家督を継いだのち、江戸幕府の崩壊を経験します。変貌を遂げた東京の風景を光と影で表現した彼の木版画は光線画と呼ばれ、明治の新しい浮世絵として人気を博しました。

 これから誰かを喜ばせに向かう後ろ姿に、ごく当たり前だった日々が思い出されます。しかし、会えないなか、思いを届ける新しい方法を一人ひとりが模索した一年はきっと無駄ではなかったはず。さあ新しい年が始まります。みなさま、どうぞ穏やかな年末年始をお過ごしください。

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