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折々の絵はがき(53)

◆〈雪に暮るる寺島村〉川瀬巴水◆

絵はがきセット〈東京十二題〉川瀬巴水(12枚組)大正9(1920年)東京国立博物館蔵

 雪はまだ日のあるうちに降り出したのか、あたりの景色を一変させました。絵はがきから伝わってくるのは怖いくらいの静けさです。こんな日に一人で外を歩いていると、通り過ぎる家々にともる灯りがいっそう暖かく目に映ります。早く帰ろうと気が急くものの、雪に慣れていない足元はゆっくりとしか進むことができません。さぞかしもどかしいはずですが、遠くから見ると、この雪景色をこんな風に独り占めしている贅沢さを少しうらやましく感じました。
 空を見上げると、雪はまるで満点の星が瞬いているようにも見えます。すーはーと呼吸するたび息の白さが夜空の色を濃く、薄く見せ、そんなことがつかの間、彼に手足の冷たさを忘れさせたかもしれません。少しよそよそしく感じられるいつもの道。一歩一歩注意深く踏みしめながら、彼の頭に浮かぶのは熱燗か、湯舟か、さあどちらでしょう?
 川瀬巴水は近代風景版画の第一人者です。日本各地を旅した巴水は、旅先で写生した絵を原画とした版画作品を数多く発表しました。日本的な美しい風景を叙情豊かに表現し、「旅情詩人」とも呼ばれた巴水。制作にあたり、彼は必ずしも名所を選んだわけではなく気のおもむくまま描き続け、その数はおよそ600点にも及んだといいます。新しい一年は巴水のように、日々の中にときめきを探してみるのも素敵かもしれません。みなさまの新年が笑顔に満ちたものになりますよう、お祈り申し上げます。

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