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折々の絵はがき(70)

◆《ミソサザイとナンテン》小泉勝爾・土岡泉◆
昭和3年(1928) 京都市立芸術大学附属図書館

コロタイプ絵はがき〈季趣五題 ふゆこもり ミソサザイとナンテン〉小泉勝爾・土岡泉

 凍てつくような寒さのなか、この景色を独り占めしているのはミソサザイです。塵やほこりを払い、冴え冴えと澄み渡った真冬の空気。道行く人は耳や鼻を赤く染めながらマフラーに顔を埋め、きっと心持ち足早に歩いているのでしょう。
 そんな寒さをものともせず、ミソサザイはじっと南天を見つめています。まるで手のひらに乗せて描いたのでは…と思うくらい緻密に描かれた鳥からは、耳を澄ませば息遣いすら聞こえてきそう。じっと見つめる視線に気付いたとたん、小鳥はさっと飛び立ってしまうのでしょう。絵を見つめながらたしかにそこに息づいている一つの命に思いを馳せました。
 この美しい絵画は鳥類写生図譜刊行会による『鳥類写生図譜』に納められたもの。小泉勝爾と合作としつつも、実質的な著者は土岡泉でした。彼はミソサザイのたたずまいの美しさに、寒さも忘れてしばし見惚れたのではないでしょうか。土岡は雅号を春郊とし、その半生を花鳥画制作と鳥類の生態研究にささげたことから「鳥の春郊」と呼ばれたそうです。さあ、いよいよ新しい年が始まります。鳥や木々、花や虫など、春郊にならって生きとし生けるものへ目を留めると、新たな景色が目の前に広がっていくかもしれません。みなさまの新年が豊かなものになりますようお祈り申し上げます。

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