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折々の絵はがき(23)

〈初夏の雨〉 渓斎英泉 1818~1830年 千葉市美術館蔵

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◆ 絵はがき 〈初夏の雨〉渓斎英泉筆 C-91◆

 先を急ぐ様子の三人が足を止めた一瞬の場面。風が強いのか着物の裾はひるがえり、雨は斜めに降っています。真ん中の女性が傘を大きく傾けて髪や着物が濡れないようにする一方で、左の女性は軒先でたたみ、早くここまでいらっしゃいなとでも言いたげな表情です。最後を歩くのは下働きの女性でしょうか。一人だけ前掛けをして荷物を抱えていますが、両手がふさがっているせいか合わせは乱れ、彼女の傘は雨をよける役には立っていません。

 その三人がはっとした様子で見ているのは小さな一羽の鳥のようです。よほど大きな声で鳴いたのか、そろって気を取られた瞬間がまるで写真を撮るように描き留められています。ふと足元に目をやると、足指にはきゅっと力が込められていて、そのことからもこの絵がふいに立ち止まった女性らのほんの一瞬を描いたことがわかります。かんざしを見ると、彼女らは芸子かもしれません。鼻緒がなじんだ小さな素足からは、少女の名残のような愛らしさと自分の足で立つたくましさの両方が伝わってきます。

 渓斎英泉は十二歳から狩野白桂斎に絵を学びましたが、二十歳のときに両親を亡くし三人の妹を養うことになりました。菊川英山の門人となり浮世絵師として活動しながら近くに暮らした葛飾北斎からも学び、日本で初めて合成顔料「ベロ藍」を使い藍摺絵を描いたことでも知られています。絵を見ていると、ふとした仕草に人柄が透けて見えたり、人となりが露わになったりするのだとはっとします。お客には見せない、素をのぞかせた女性の表情を見逃さなかった英泉は、誰かの無防備を日々こうして拾い集めていたのではないでしょうか。すぐそばで見つめる彼の前を、我に返った三人が何事もなかったように横切る姿が目に浮かびました。

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