折々の絵はがき(29)
〈漆絵画帖〉柴田是真 明治時代(19世紀) 東京国立博物館蔵
小さく切り取られた窓には、太さも色もまちまちの竹の格子がはめられています。それを目でたどると隅の方にひっそり蜘蛛の巣がかかっています。ともすると建物をうらさびしく見せそうなものですが、消えそうな糸が美しくてしばらく見とれてしまいました。その前で気楽そうに鳴くからすは辺りの静けさをいっそう際立たせています。かあとひと声鳴くや、静まり返った格子の向こうからひょいと誰かが顔をのぞかせ、からすがぱっと飛び立つ。絵を見ているとそんな「続き」が思い浮かびました。黒い姿は雪景色のよい引き立て役のようです。
柴田是真は幕末から明治時代に活躍した漆芸家であり、画家です。11歳で蒔絵師 古満寛哉に弟子入りした後、円山応挙の流れを汲む四条派に絵を学びました。当時の蒔絵師は絵師が描いた下絵を基にしていましたが、是真は下絵から自分で手掛けることを目指したのです。彼は青銅塗や四分一塗などの変塗 を考案し、蒔絵師として江戸随一の地位を獲得する一方で、和紙や絹に漆で絵を描く「漆絵」を生み出しました。当時、漆に顔料を混ぜた彩漆(いろうるし)はたった5色しかありませんでしたが、是真の卓越した技術はまるでそれを感じさせません。
「漆絵画帖」には是真の目がとらえた人や生き物や雑貨などがまとめられています。それを見ると彼が自然を愛し、遊び心を大切にする人だったことがうかがえます。見る人使う人を喜ばせたい。彼のものづくりの根底にはただただそんな思いがある気がして、それまで知らなかった柴田是真という人にたちまち心惹かれたのでした。
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