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折々の絵はがき(2)
〈百貨店圖 日本橋三越〉山口晃 平成16(2004)年
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新しい働き方の試みが至るところで始まっています。誰もが手探りで日々を過ごすなか、はっとする絵はがきに出会いました。
売りつくしののぼりがはためき、にぎやかさが伝わってきます。まるで生きること働くことを祝うお祭りのようです。画面を埋め尽くす誰ひとりじっとしているひとはいません。
ここはいくつもの時代が自由に混ざりあう特別な時空です。贈り物を買った老夫婦は店員さんと束の間のおしゃべりを楽しみ、ちょんまげ姿のお侍さんがスクーターに乗る一方、牛車も馬もタクシーもみんなひしめき合っています。お昼時なのか食堂は込み合っていて、上の階ではビールをおいしそうに飲むひとの姿。百貨店に軽々と荷物を運ぶのはねじり鉢巻きにふんどしのみなさんです。
この喧噪をよく知っている気がして懐かしさがこみ上げました。めくるめくこの世界が絵はがきをはみ出していっそ今を飲み込んでくれはしないかと頭をよぎります。手のひらからはにぎわいとざわめき、忙しなさや喜びがこぼれ、小さなひとたちが次々にあふれ出してきそうです。
〈百貨店圖 日本橋三越〉は、2004年に日本橋三越が生誕100周年を迎えた記念として描かれました。作者は日本の伝統的絵画の様式を用い、油絵という技法を使って描く作風が特徴の現代美術家山口晃氏です。百貨店にしかない特別なきらめきはもちろんのこと、いつの時代もきっとひとはこうして一生懸命働き、たのしく消費してきたのだとおおいにはげまされた一枚です。
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