折々の絵はがき(7)
重要文化財〈百鬼夜行図〉室町時代 大徳寺真珠庵蔵
わたしたちに備わった想像力は、時に見えないものを見せ、聞こえないものを聞かせてくれます。ただ、それが恐怖心と結びつくと少々やっかいです。暗闇に何かの気配を感じたり、家がきしむ音にびくっとすると、今度はその正体を想像してますます恐怖がふくれあがっていくからです。
『百鬼夜行図』には、赤鬼、青鬼のほか「付喪神」が描かれています。台所道具や日用品、楽器、仏具などは使われて100年経つと魂が宿り、妖怪やおばけになると考えられていました。「付喪神」とも呼ばれた彼らが、夜に京都の一条通りを行列する様子を描いたのが『百鬼夜行図』です。
もしかすると付喪神は、ひとが妖怪を怖がる心が生み出したものかもしれません。そう考えるとこの絵巻物の存在に納得します。姿のあるものよりないものの方がずっと怖いし、それを想像することはもっと怖い。それならばと、作者は見たこともない妖怪の姿を描いて見せることで市井の人々の恐怖心をやわらげようとしたのではないでしょうか。というのも、描かれた妖怪たちはどこかコミカルで、そこには道具とそれを使う人々、その両方への作者の優しさと気づかいが感じられるからです。道具たちは手足を持って生き生きと走り回り、たいそうにぎやかな様子。また、それを眺めるひとには「そんなに怖がらなくても大丈夫」と言ってくれている気がします。もちろん「道具は大切に使うこと」も暗に伝わってくるのです。
京都にはものに魂が宿るという考えが今も息づいていて、一年を通じて針や筆などさまざまなものが供養されています。その一方で毎月お寺に立つ市では古道具がずらりと並べられ、だれかの手に取られるのを待っています。今の世でもきっと付喪神たちはにぎやかに街を闊歩しているはず。だれもが寝静まった深い夜、一条通で耳をすませばどんな音がきこえてくるのでしょう。
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